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夜明けの星 6-26(夏樹)
結局、雪夜はお花見弁当を半分食べ終わるのに夕方までかかった。
美味しい、もっと食べたいという欲求と、口腔内の違和感、触感の違和感による吐き出したいという欲求がせめぎ合って、なかなか飲み込めないからだ。
いつもは途中で諦めてしまうのだが、今日はよほど食べたかったのか、諦めようとはしなかった。
兄さん連中が交代でちょっかいを出しに来ては、笑わせて和ませてくれたのも良かったのかもしれない。
違和感から意識を逸らすことで、食べたい欲求の方が勝って食べ進められた可能性はある。
「美味しかった?良かったね!いっぱい食べたね!」
「!!」
夏樹が雪夜の頭を撫でると、満足そうに頷いた。
雪夜がご飯を美味しそうに食べてくれるのはやっぱり嬉しい。
「でも、この時間だと晩御飯は食べられないかな。まぁ、昼夜兼用ってことでいいか」
「思ったより食えたな」
「はい」
夏樹が雪夜の弁当の残りを冷蔵庫に入れようとしていると、隆が覗きにきた。
「本当はまだ食べたいみたいですけど、さすがにもう無理みたいですね」
「大きさが良かったのか、見た目か……寿司自体は初めてじゃねぇもんな?」
「そうですね……ん?雪夜、どうしたの?」
雪夜の食事について、隆と考察していた夏樹の背中に雪夜が引っ付いて来た。
「~~……」
返事をする代わりに、顔をグリグリと擦りつけてくる。
「眠くなった?ちょっと寝る?お昼寝しよっか、おいで」
「~~~っ!」
夏樹が抱き上げると、雪夜はほとんど目が開いていない状態で頭を横に振った。
「え、寝るのは嫌なの?あぁ……大丈夫、兄さん連中は雪夜が起きてもまだここにいるよ」
「……?」
「雪ちゃん、今夜は俺たちもここに泊っていくから、夜もいるよ。ちょっと寝てきな」
隆が雪夜に二ッと笑いかけて頭をガシガシと撫でた。
「……ぁぃ」
「それじゃ、ちょっとだけお昼寝して来ようか」
ようやく納得した雪夜を寝室に連れて行く。
夏樹がベッドに下ろそうとすると雪夜がぎゅっとしがみついてきたので、抱っこしたまま夏樹も横になった。
「雪夜~?どうしたの?まだ寝たくないの?」
「ん~……なちゅ……しゃ……も」
「ん?うん、俺もここにいるよ。一緒に寝ようか」
「じゅっと……いて……」
「っ!?……うん……大丈夫。ずっといるからね。ちゃんと傍にいるよ」
「……」
夏樹の言葉を聞くと、雪夜がホッとしたように息を吐いてそのまま寝息をたて始めた。
やばいな……
久々に言葉にされると破壊力半端ない……
夏樹は熱くなった顔を両手で覆った。
言葉が出ていない間も、雪夜の気持ちは態度から伝わっていた。
傍にいて欲しい、抱っこして欲しい、一緒に寝て欲しい……雪夜がして欲しいことは、だいたい仕草や表情でわかる。
でも、やっぱり……
言葉にされると、嬉しい……
まだ雪夜から「好き」と言う言葉は聞けてないけど……目が覚めたら言ってくれるかな~……
「……大好き……愛してるよ、雪夜」
耳元で囁いて、額を軽くくっつけながら夏樹も一緒に目を閉じた――……
***
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