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夜明けの星 6-28(夏樹)
「――……あれ?雪夜?って、どこに頭ツッコんでんの!?」
雪夜の「なちゅしゃん!もっかい!もっかい!」と言う熱烈アンコールを受けて、同じ曲を繰り返すこと数回……
背中に何やら違和感を感じて振り向くと、雪夜がソファーと夏樹の背中の隙間に頭をツッコんで爆睡していた。
なんだこの状況!?
「雪ちゃんさすがだな~!」
「やっぱり俺らの予想の斜め上行くよな」
兄さん連中が爆笑しながら、隙間で寝ている雪夜の写真を撮りまくっていた。
「いや、さっきから背中でモゾモゾしてるとは思いましたけど……っていうか、兄さんら見てたんでしょ?もっと早く教えてくださいよ!」
「そりゃまぁ、背中に頭ツッコんでるのは見てたけど……まさかそこで寝るとは思わねぇし?」
「ですよねっっ!!」
どうやら、眠くなったのに夏樹がギターを弾いているせいで抱っこしてもらえないので、背中に引っ付こうとして力尽きたらしい。
夏樹はギターを玲人に渡して、雪夜を抱き上げた。
「後は兄さんらで好きにやってください。雪夜ベッドに寝かせてきます」
「おう、お疲れ~」
***
「よ……っと……」
雪夜をベッドに下ろして、夏樹も隣に寝転んだ。
気持ち良さそうに眠る雪夜の頬をぷにっと指で押すと、雪夜の口元がふにゃっと緩んだ。
それを見て、思わず夏樹の顔も緩む。
結局、歌を聞いて何か思い出す様子はなかったが、今の雪夜もこの曲は気に入ったようだ。
まさか同じ曲を繰り返し歌う羽目になるとは思わなかった……
たぶん、5回以上歌ったぞ?
練習していた当時でもそんなに連続で歌うことはなかったのに……
おかげで、喉が痛い……
「……っはい?」
軽いノックが聞こえたので、慌てて起き上がる。
「雪ちゃんは爆睡か?」
斎がそっと入って来た。
「はい、よく寝てますね」
「そうか。ほら、ナツはこれ飲んどけ」
「何ですか?あ、ホットレモネード?」
「頑張ったご褒美だ」
「ありがとうございます」
斎は夏樹の喉が限界なことに気づいていたらしい。
「交替してやっても良かったんだが、今回はお前が歌うことに意味があったからな」
「あ~でも、雪夜、とくに変化は見られませんでしたけどね」
「そうでもねぇよ?あれだけ繰り返し聞きたがるってことは、やっぱり何か記憶か精神 に引っかかることがあったんだろう。なんせ、裕也曰く、雪ちゃんは不安になるとあの曲をずっと聞いていたらしいからな~」
「そうですね……って、え!?ちょっ、それ初耳ですけど!?え、俺が出張の時にあの映像を見せたって言うのは聞きましたけど、それ以外にも見せたことあるんですか!?」
「見せるっつーか、音源を渡してたらしいぞ?」
「マジですか……」
うそん……音源ってあの映像の音源!?
俺の高校時代の歌声ですか!!
いやあああああ!!やめてぇえええええええええええ!!
「こら、雪ちゃんが起きちゃうじゃねぇか!」
ベッドに突っ伏してジタバタしている夏樹の頭を、斎が軽く叩いた。
「俺の黒歴史ぃいいいい……」
「あ?あんなの別に黒歴史じゃねぇだろ。それに雪ちゃんが気に入ってるんだからいいんじゃね?……あぁ、今の雪ちゃんには今日の音源を渡してあげるって裕也が言ってたぞ。良かったな!」
「ええ!?」
裕也さんのことだから、今回も録画してるかもとは思ってたけど!!
う~ん、でも高校時代のやつに比べればマシ……
あ゛~~でも、今日のはギターの腕が落ちてるんだよな~……
ちょっと玲人さんにギター借りて真面目に練習しよう!!
「斎さん!ギターの練習するから、今日の音源を雪夜に渡すのは待ってって言っといてください!」
「ハハハ、わかった。言っといてやるよ!」
爆笑する斎が部屋から出て行くと、夏樹は大きく息を吐きながらベッドに寝転がり、
「頑張って練習するから、ちょっと待ってね」
と、雪夜の頭を撫でた――……
***
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