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夜明けの星 6-31(夏樹)

 ゴールデンウィーク初日―― 「こんちゃ~っす!入ってもいい?」  佐々木と相川が入口で一旦止まってソロリと覗き込んで来た。   「あぁ、大丈夫だ。入って来い」 「雪夜は?」  佐々木と相川は、雪夜が別荘に来てからは数回しか会っていない。  雪夜が別荘に来てから限られた人以外にも会えるようになったのは今年に入ってからだからだ。   「まだ寝てる。起こして来るから待ってろ」 「あ~いいよ。別に急がねぇし。あんまり眠れてねぇの?」 「一昨日の夜が全然ダメでな。昨夜はうなされずに眠れたから、そのまま寝かせてるだけだ」 「じゃあ、起きるまで待つよ」 「そうか。……それで、最近どうなんだ?」  二人分のジュースをテーブルに置いて、夏樹もソファーに腰かけた。 「ん~?まぁまぁ。あ、そうだ、学島先生いる?俺学島先生に聞きたいことがあっから、雪ちゃんが起きるまで行って来る!」 「今ならまだ母屋にいるだろ。もうちょっとしたらランニングに出かけるかもな」 「マジか!んじゃちょっと行って来る!」  相川が慌てて母屋の方に走って行った。 「俺も斎さんに聞きたいことがあったんだけどな~」  相川を見送りながら、佐々木が残念そうにため息を吐く。 「斎さんと来たんじゃねぇのか?」  たしか、今日は斎が来る予定だったから、二人を拾って来てくれと昨夜頼んであったのだが…… 「あ~、今日は菜穂子さんの体調が悪いから行けなくなったって。んで、急遽晃さんが迎えに来てくれた。俺らも免許取ったから車で来れるんだけどな。もう道も覚えてるし」 「免許取り立てで山道は止めておけ。ここの山は結構カーブ多いからな」 「まぁ、たしかに……」 「そんじゃ晃さんが来てるのか?」 「来てるけど、店があるからすぐに帰るってさ」 「おっと。俺、晃さんに用事があったんだ。ここ頼んでいいか?まだ起きて来ないとは思うけど……」 「え、別にいいけど……俺だけで雪夜大丈夫?」 「あ~大丈夫。昨日お前らの写真見せてあるから」 「そういう問題!?」  佐々木の不安そうな声を背中に、夏樹も母屋の方に走った。 ***  雪夜が昏睡状態になったことで、佐々木と相川は将来についていろいろと思うところがあったらしい。  二人とも内定をもらっていたのだが、それを断って、大学を卒業後、相川は理学療法士に、佐々木は心理カウンセラーになるために、もう一度大学に入り直している。  それぞれに道を決めた時にはまだ雪夜は昏睡状態だった。  二人とも、雪夜はきっと目を覚ますと信じて、昏睡状態から意識を取り戻した後のフォローをしていくために、出来ることを考えた結果だったらしい。  ちなみに、現在二人は、夏樹と同じく浩二の会社に就職している。  大学を入り直すにあたって、一番の問題は入学金だ。  働きながら大学に通うには、内定をもらっていた会社では無理だったので、親に頭を下げるかバイトをめちゃくちゃ入れるか、働いてお金を貯めてから大学に行くか……どうした方がいいと思う?と相談されていた夏樹のところにたまたま浩二がやってきて、「それならうちの会社に入って仕事しながら大学に行けばいい」と言い出し、あっさり二人を雇ったのだ。  しかも、大学の入学金は浩二から話を聞いて感動したマダムが、「しっかり勉強して必ず資格を取ること」を条件に全額負担すると言い出したらしい。  まぁ……気まぐれだからな、あの人は……というか、マダムがこういう話に弱いのを知っている浩二がわざと話してお金を出させる方向に持っていたような気がするが……まぁいいか。  二人は、雪夜に会えなかった間も別荘にはよく来ていた。  雪夜には会えなくても、雪夜のリハビリをしている学島や、カウンセラーの斎からそれぞれ雪夜の状態やどう対処しているのかを聞くことで、勉強にもなるから……とのことだった。  本当は、親友に顔も覚えられていないどころか怯えられるというのは、二人にとってかなりショックだったはずだ。  それでも、雪夜の状態を受け止めて、変わらずに親友という立場でいてくれる二人は、夏樹にとっても心強い。 ***  用事を済ませて娯楽棟に戻ると、話し声が聞こえて来た。  お?雪夜起きたのかな? 「ただいま~。雪夜起き……え、どういう状況!?」  夏樹が部屋に入ると、泣いている佐々木を雪夜が一生懸命よしよししていた。 「あ~……っと、俺ちょっともう一回母屋に……」 「おいこら、ちょっと待てや」  頬をポリポリと掻きながら部屋から出て行こうとした夏樹を佐々木が呼び止めた。 「な~~つ~~~き~~~さ~~~~ん!?」  ティッシュで鼻をかんで、雪夜に涙を拭いて貰いながら、佐々木が恨めしそうに夏樹の名前を呼ぶ。 「な、なんだよ!?」 「どういうことだよっ!?雪夜が声っ……言葉っ!……俺、聞いてないっっ!!」 「え、言ってなかったっけ?」 「とぼけんなっ!!」 「はい、すみません!!え~と、2月に雪遊びをした時に初めて自然な発声で笑い声が出て、桜を見た時に言葉が出るようになったんだよ。だから、まだほんと最近で……」 「え、雪夜、外に出たのか!?」 「うん」 「ちょっと、そこら辺、く・わ・し・くっっ!!!」 「ぐえっ!わかった、わかったから!!落ち着けっ!!――……」  佐々木に胸倉を掴まれたので、夏樹は即行両手を上げて降参のポーズをした。  ハハハ……ちょっと今から佐々木にシメられま~す…… ***

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