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夜明けの星 6-32(夏樹)
「――というわけです!!」
夏樹は、雪夜の声が出るようになった経緯を、佐々木に問われるまま細かく説明した。
「なるほど、雪と桜か……」
「斎さんとも、雪夜は圧倒的に感動体験が少ないから、もっといろんな感動体験をしていけば、新たな刺激になっていいんじゃないかって話にはなってて……」
「そんなことになってるなら、もっと早く教えろよ!!いつも何かあればすぐに報告してこいって言ってんだろうがっ!?」
口調は荒いが、雪夜が怯えるので怒鳴りはしない。
雪夜には笑顔を向けながら、爽やかな声でこのセリフを言ってるのが余計に怖い。
裏 の世界ではそういうのが得意な人は多いのだが(夏樹の周囲はみんな得意だ)佐々木は一般人だ。
こいつホントどこでそんな技を身につけてくるんだよ……兄さん連中の影響か?
「だから、悪かったって!でも今回のは正直俺らもまだ経過観察中なんだよ。朝起きたらまた声が出なくなってる可能性だってあるわけだし……期待させておいて、お前らが来た時に声が出なくなってたら……がっかりさせちゃうだろ?」
これは本心だ。
すぐに知らせなかったのは、二人をがっかりさせたくなかったというのが一番大きい。
ま、あとは……驚かせたかったっていうのとか、面倒臭かったっていうのもあるけど?
「それは……まぁそうかもしれないけど……」
「よちよち!」
「ん?あぁ、雪夜、大丈夫。もう泣いてないよ。ありがと」
「あい!」
「……雪夜、上手に喋れるようになったんだな!スゴイな!」
「あい!ゆちや、しゅご~い!」
雪夜が、佐々木に褒められて嬉しそうに万歳をした。
「……」
佐々木は微笑んだまま一瞬固まると、雪夜をぎゅっと抱きしめた。
「ん゛~~~~~っっっ!!!ちょっと夏樹さんっ!!何もう!言葉が出るようになったら雪夜の天使度がぶち上がってない!?」
「あ~わかる?まぁ、ぶっちゃけ……上がってるよな」
うん、お前はそうなると思った。
佐々木も相川も、雪夜のことを親友として愛している。
親友だけれども、二人にとっては手のかかる弟のような存在でもある。
だから……
「雪夜あああああああ!!!可愛いぃいいいいい!!」
「きゃはははっ!」
佐々木に頬をスリスリされて、雪夜がくすぐったそうに笑った。
***
ちょうどそこに相川が戻って来た。
「た~だいま~!雪ちゃん起き……へ?」
笑い声をあげながら佐々木とじゃれている雪夜を見て、相川が固まった。
「おぅ、おかえり。起きたぞ」
「ちょ、え、夏樹さん、これ一体どういうこと!?」
「あ~、それは佐々木から聞け!」
「今俺忙しいから無理ぃ~!夏樹さんがちゃんと説明しとけっ!な~、雪夜~!」
「な~!」
「な~つ~き~さ~……」
「わかった、わかったから!!説明しますって!!」
――はい、冒頭に戻ります。
くそっ!!こいつが戻ってきてから二人まとめて説明すればよかった……
「――というわけだ。わかったか?」
「なるほど。え、それじゃ喋れるんだ!?」
「精神年齢は3歳児だが、長い間喋ってなかったから滑舌が悪くて舌ったらずになってるせいか、会話は2歳児くらいのレベルだけどな」
「マジか……え、何それめっちゃ可愛いじゃんか!!」
相川が真剣な顔で口元を押さえた。
「まぁな」
「雪ちゃああああああん!!相川だよ~!覚えてる~!?」
「あ、い……よ~?」
「あ・い・か・わ!」
「あ~、い~、あ~、わっ!」
「惜しいな~!『か』って言える?――」
相川が早速自分の名前を雪夜に覚えて貰おうとする。
それに負けじと、佐々木も名前を教えていた。
親友が精神年齢3歳児で会話レベル2歳児になっていると聞いて喜ぶのはこいつらくらいだろうな……
兄さん連中に比べて会う回数は少なかったはずなのに、雪夜は佐々木と相川にはわりとすぐに慣れた。
たぶん、夏樹と同じで、今は忘れてしまっていても、記憶の奥底ではちゃんと覚えているのだろうと思う。
心なしか普段よりも楽しそうな雪夜の様子に、嬉しい反面少しだけ二人に嫉妬。
やっぱり親友との絆には勝てねぇな……
夏樹はちょっといじけながら、昼飯の支度に取り掛かった。
***
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