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夜明けの星 6-33(夏樹)
雪夜が寝ていたので、今日のリハビリは昼からすることになっていた。
「雪夜くん、こんにちは~!」
「こんちゃ~!が~くしぇんしぇ~!」
最近、雪夜が喋れるようになってきて反応が良くなったせいか、学島のノリがどんどん幼児向け番組のお兄さんみたいになってきている。
まぁ、二人とも楽しそうだから別にいいけど。
佐々木と相川が見守る中、雪夜がいつものようにリハビリを始める。
兄さん連中もよく覗きに来るので、雪夜は他の誰かがいる空間でのリハビリにもすっかり慣れた。
たまに佐々木たちにどや顔を見せ、「雪夜~上手だぞ~。スゴイスゴイ!」と褒めてくれると喜んで更に張り切る。
なんだか……参観日みたいだな……
さしずめ俺は副担任的な?いや、補助員か?
「学島先生~!今のってどうやったんですか?」
「これですか?これは、股関節が――……」
「あ~もう!相川、うるさい!気になるならこっち来い」
学島が何かする度に相川が質問をしてくるので、夏樹は相川と場所を交替して佐々木の隣に座った。
「あいつ、理学療法士は意外と向いてんのかもな」
「まぁ、あいつ自身スポーツしてて整体師とかスポーツドクターとかには世話になってたから、興味はあったみたい」
「じゃあ、なんで最初からそっちを目指さなかったんだ?」
「あ~……たぶん……俺のせい」
「お前の?」
「俺は早く家を出たかったから……一人暮らしをするために実家から離れてるあの大学受けるっつったら、相川もついてきたんだよ」
「へぇ~?」
「もともとあいつ、スポーツ推薦決まってたのに、俺と同じとこ受けるために推薦蹴って……俺、受験当日まであいつが進路変更してること知らなくてさ……」
佐々木が前を向いたまま自嘲気味に笑った。
相川が言うには、スポーツ推薦は決まっていたが、インターハイで痛めた肩の治りが悪く、ずっと違和感が残っていたので、佐々木のことがなくても推薦は断るつもりだったのだとか。
「あいつの肩も、もう治ってると思ってた。普通に授業でもバスケしてたし……」
「……あの相川がよく黙っていられたな」
「それな。俺もそこにビックリした。相川のくせによくもまぁ俺を騙し通せたもんだって……俺の進路知った時、あいつめちゃくちゃ怒ってさ……」
「お前は、それで良かったのか?昔からあいつのこと好きだったんだろ?」
「だからだよ。ずっと一緒だったから……一旦距離を置こうかなって思って……ま、あいつが追いかけて来たから結局離れられなかったけどな」
ケガなどで選手としてやっていけなくなった場合、トレーナーを目指す人は少なくない。
相川も推薦を断った後は、その道を考えていたらしい。
だが、佐々木の行く大学にはその資格が取れる学部がなかったため、佐々木と同じ学部を受けたのだとか。
「あいつ、基本的にバカなんだけど、自分の興味のあることに関してはやたら記憶力がいいんだよ。俺と同じ大学受けるって決めてから、教科書丸暗記する勢いで勉強してたらしい。気持ち悪くね?」
佐々木が心底気持ち悪そうに顔をしかめた。
「おまえ……恋人に向かってそれはねぇだろ。なんだかんだでその頃から愛されてんじゃねぇか。良かったな」
「まぁね~。……今回のことは、あいつにとってもいいきっかけだったんだ。もう一度自分が本当にやりたいことを考えて、ちゃんとその道を選ぶことが出来た。それは俺も同じだけどな」
佐々木と相川は今は大学時代よりもう少し広い部屋を借りて二人で同棲している。
雪夜と四人でわちゃわちゃしていた頃は、恋人同士というよりはまだまだ幼馴染感が強かったが、だいぶ落ち着いてきたように感じる。
大人になったなぁ~……って、そんな風に二人を見ている自分に年を感じて若干へこんだ……
***
「なちゅしゃ~ん!みぃ~た?」
佐々木と話し込んでいると急に雪夜に呼ばれたので、二人して慌てて雪夜を見た。
「えっ!?ごめん、見てなかった!もう一回して!?」
「もぉ~!めっ!」
「ごめんなさい!もう一回お願いします!」
両手を合わせてお願いすると、雪夜が頬を膨らませてプンプンしながらももう一回してくれた。
数秒だけの片足立ち。
え、それだけ?と思われるかもしれないが、つい数か月前までは一人で歩くことも出来なかったことを考えると……
「お~、スゴイね!上手だよ~!」
「え、待って!?何も持たずに出来るようになったのか!?スゴイじゃんか雪夜!!」
「んふ~!ゆちや、しゅご~いね!」
夏樹と佐々木が拍手喝采を送ると、雪夜が嬉しそうにニコっと笑った。
「あら、やだちょっと、雪夜ってば笑顔も前よりだいぶ自然になってない!?うそ、何それ!!ちょっと会えなかった間にすごい変わってるじゃないの!?どういうことなの夏樹さん!?」
佐々木がテンパってちょっとオネェになっていた。
「うん、すごいだろ?」
「スゴイけど、報告はこまめに!今度から毎週土曜に定期連絡して来るように!!」
「はいはい、わかりました!」
ちょっと報告を怠ったせいで、月一回の定期連絡が、週一回になってしまった……
はいはい、わかってますよ。俺の自業自得ですよ!はぁ~……
***
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