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夜明けの星 6-36(佐々木)

「雪ちゃん、寝たか~?」 「何とか……」 「お疲れさん。大丈夫か?」  フラフラになって寝室から出て来た佐々木たちに、斎がジュースを出してくれた。 「ありがとうございま~す!……っていうか、あんな秘密兵器があるなら早く出してくださいよ~!!」 「すまんすまん、まぁ、俺もさっき思いついて急遽ユウに送ってもらったんだよ」  口を尖らせる相川に、斎が悪びれる様子もなく笑った。  相川のおかげで寝室には連れて行けたものの、やっぱり夏樹がいないと嫌だと言って泣き喚く雪夜に佐々木たちが困り果てていると、斎が「ちょっとこれ観せてみろ」と、タブレットを持って来てくれた。  言われた通りにファイルを開くと、お花見の時に撮ったという夏樹の弾き語り動画が流れてきた。  雪夜はそれを聞いた途端、ピタっと泣き止んで動画に釘付けになり、それを鬼リピしながらようやく眠りについたのだ。  夏樹効果さすが……半端ねぇわ…… *** 「それで、どうだったんですか!?」  サラッと聞き流しかけたが、斎はあの動画を裕也に送って貰ったと言っていた。  ということは、裕也と連絡がついたということだ。 「あぁ、大丈夫。生きてるよ」 「ケガの具合は!?」 「ちょおおおおっと待った!!」  佐々木が更に詳しく聞こうとすると、斎と佐々木の間に相川が割り込んで来た。 「え、あの、生きてるとかケガとか、一体何があったの!?俺だけ話についていけてないんだけど!?」 「あ~えっとな……」  そうだった。雪夜がいたから相川には詳しく話せてなかったっけ。  ざっと斎から聞いた夏樹の状況を話す。 「――なるほど……うん、わかった。じゃあ続きどうぞ!!」  相川が斎に続きを促す。 「まぁ……ケガ自体は大したことない」 「何があったんですか?」 「ん~……」  どうやら、夏樹が店から出たところでその店の外壁を補修していた足場が落ちて来たらしい。  夏樹は、見送りに出ていた店の子を庇ったので、若干逃げ遅れたのだとか。  大量に買い込んでいた服の入った紙袋で後頭部と背中は死守したので、頭の方は軽い脳震盪をおこしただけで済んだらしいが、倒れた上にもパイプが数本落ちてきたせいで全身に多少の打撲があるらしい。  多少?自分で電話をかけてこれないくらいなのに?斎さんたちが化け物すぎて基準がよくわかんねぇ…… 「意識は!?あの、頭打ったってことは、まさか夏樹さんまで……」  佐々木は斎の言い回しが微妙に引っ掛かった。  まさかとは思うけど、頭を打った時によく聞く、記憶喪失……なんてことにはなってねぇよな? 「あぁ、意識はあるぞ。心配しなくても記憶喪失にもなってない。ユウが行った時には暴れてたらしいしな」 「暴れてた!?」 「目が覚めた途端に、雪夜が待ってるから帰るって言い出したんだと。一応頭はすぐに検査してくれて異常はなかったらしいが、あちこち打撲してるし、若干ひびが入ってるところもあるからしばらく入院だって言われたのに、無理やりベッドから出ようとして医師や看護師と揉めてたらしい。ひとまず、ユウが言い聞かせてる間に医師が鎮静剤打って大人しくさせたらしいぞ?」  わぁ~い……裕也さんのとは一体……  でも、あの夏樹さんがそんなに聞き分けのない行動を取るとは……ちょっと意外だ。 「あれ?はいはーい!!じゃあ、事故の話しは誰から聞いたんですか?」  相川が手をあげて斎に質問をした。  言われてみれば……裕也さんが着いてすぐに夏樹さんを大人しくさせたなら、話を聞く暇なんてなさそうだけど…… 「ナツが庇った子が病院について来てくれてたらしくて、その子から聞いたんだと。でも、それが結構若い女の子だったみたいで……ショックで泣いてたからなかなか話が聞けなかったらしい」 「あ~……」  そりゃまぁ……ショックだよなぁ…… 「俺の人選ミスだな」 「は?」 「ユウじゃなくて、コージかアキを行かせてればもっと早く聞き出せた」 「どういうこと……?」 「ユウは泣いてる女の子の扱いが下手なんだよ。あいつ、基本的にどSだから、相手が泣いてるともっと泣かせたくなっちゃうんだよな~」 「あ……はは……なるほど」  佐々木は相川と顔を見合わせ、頬を引きつらせながら苦笑いをした。  そんな二人を横目に、斎が腕時計を見た。 「……そろそろだな。さて、それじゃ本題。今から雪ちゃん連れて病院行くぞ。お前らも一緒に送って行くから、荷物用意してこい」 「へ?……え、雪夜を!?」 「あぁ、詳しくは後で話してやるから、ほら、急げ!!」 「あ、はい!」  言われるまま、慌てて相川と部屋に戻る。 「雪ちゃん連れて行くって、でも、雪ちゃん外に出て大丈夫なのか?」 「俺にわかるわけねぇだろ!?ぅ~ん……今は寝てるから大丈夫かもしれないけど……」 「でも、雪ちゃんって病院苦手だよな?パニックになったりしねぇかな……」 「そうなんだよな……よし、出来た!相川、忘れ物ねぇな!?」 「おう!」  斎が一体何を考えているのかわからず、二人で混乱しつつ荷物をまとめてリビングに戻ると、斎が雪夜と夏樹の着替えを用意していた。  あ、そうか……入院するってことは、いろいろ必要だから……え、でも雪夜の分まで?    聞きたいことが山ほどあるが、斎は後で話してくれると言っているので今はとにかく…… 「斎さん、俺たちも準備手伝います!」 「お、助かるよ。じゃあ……――え~と、後は歯ブラシセットとコップと……」 「斎さ~ん、歯ブラシって今雪ちゃんたちが使ってるやつでいい?新しいやつ出す?」 「歯ブラシの予備が置いてある場所わかるか?わからなかったら、ひとまず今使ってるやつでいいぞ」 「斎さん、コップってどれがいいんですか?」 「コップは――……」  斎の指示で、佐々木と相川が必要なものを揃えていく。  斎は今までも雪夜と夏樹の入院のサポートをしてきたせいか、入院時に必要な物についてやけに詳しい。 「――とりあえずはこんなもんかな。よし、んじゃこの荷物は先に車に乗せて来てくれ。リムジンが来てるはずだから」 「はい、わかりま……え?……リ……リムジンんんん~~~~っっ!?」  佐々木は持ち上げかけた荷物をポトリと落として、思わず相川と一緒に叫んだ。 「シィ~~!!うるせぇよお前ら!!雪ちゃんが起きるだろ!?」 「あ、すみませんっ!」  いや、驚かねぇ方がおかしいだろう!?  リムジンってどういうこと!? 「それも後で話してやるから!俺は雪ちゃんを連れてくる」 「は~い!」  戸惑いつつ佐々木と相川は急いで荷物を運んだ―― ***

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