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夜明けの星 6-37(佐々木)

 斎はリムジンの中で説明をしてくれると言っていたが、別荘を出発してすぐに雪夜が目を覚ましてしまったので、話しどころではなくなった。 「ぅ゛~~~……っく……なちゅしゃ……っ……」  最悪なことに、どうやら怖い夢を見たらしく、ぐずりながらのお目覚めだ。  最初はほとんど目が開いていなかったので、今のうちに!と佐々木たちが咄嗟にトントンして寝かしつけようとしたのだが、夏樹との違いに気付いたらしく、雪夜が怪訝な顔でパッと目を開いた。 「ふぇっ!?……っ?」  見慣れない場所にいることに気付いた雪夜がキョロキョロと車内を見回す。 「雪ちゃん、大丈夫、よく見てごらん?前にも乗ったことあるだろ?」 「なちゅしゃん……ろこぉ……?」 「あ、ほら、雪ちゃん、ピカピカして遊ぼうか!!」 「なちゅしゃ~ん……?らっこ(抱っこ)~……にゅ~(ぎゅ~)……なちゅしゃあああああん!!――」 「雪夜!ほら、夏樹さんの歌聞く!?」  いくら呼んでも夏樹が現れないせいで雪夜がパニックになりかけていたので、また夏樹の動画を見せたり、車内の照明を変えたりして気を逸らしながら、どうにかこうにか三人がかりで雪夜を宥めてあやして……  ようやくもう一度寝かしつけることに成功し、三人揃ってほっと安堵したところで目的地に着いた。  前から思ってたけど……不安定になっている雪夜の相手を、ずっとひとりでしていた夏樹さんって……マジ凄い……  リムジンで到着したのは、雪夜が約一年前まで入院していた、雪夜の義父、隆文(たかふみ)が院長をしている上代総合病院だった。  K総合って、ここのことかよ!!  眠っている雪夜を斎が抱っこして、佐々木と相川が荷物を持って裏口から中に入る。  もう面会時間も終わって、病院内は暗く静かだった。  ここに来るの久々だな……  雪夜が昏睡状態だった頃は、毎週末のように相川とここに通っていた。  ずっと付きっきりで、精神的にも身体的にも疲弊していた夏樹を少しでも休ませるために、兄さん連中といろいろ画策していたことを思い出してちょっと懐かしく感じた。     雪夜が昏睡状態から目覚めた後は、雪夜の精神状態が不安定だったので、佐々木と相川はほとんど会えなかった。  夏樹から、雪夜の過去について教えて貰った時は驚いたし、雪夜が佐々木たちのこともわからなくなっているのはショックだったが、もしかしたらもう目覚めないかもしれないと言う、先の見えない不安や絶望と戦っていた頃に比べれば、雪夜が起きて動いているという事実は奇跡的で、たとえ会えなくても、雪夜が少しずつ回復している様子を夏樹から聞くだけで、嬉しかった――…… ***  なんとなく予想はしていたが、やはり斎は、雪夜が入院していた時に使っていた特別室に向かっていた。  相川に扉を開けさせて、斎がいつもの調子で普通に入っていく。 「お~っす、お待たせ~」 「あ、いらっしゃ~い!」  裕也もこれまた自分の家のように普通に迎え入れた。  兄さん方~、ここ、病院ですよ~。 「どうだ?」 「まだ寝てる~。たぶん、なっちゃんまたあんまり眠れてなかったんじゃないかな~。珍しく鎮静剤が効きすぎてるね。まぁ、なっちゃん薬に耐性あるから、キツめにはしてあったんだけど」 「そうか」 「雪ちゃんも寝てるの?あの動画で眠れた?」 「あ~まぁな。でも、リムジンの中で目が覚めて、もう一回寝かしつけるのはちょっと苦労した。なぁ?」 「え!?あ、はい!」  突然話を振ってこられたので、ちょっと戸惑いつつ返事をした。  斎は、雪夜を抱っこしたまま椅子に座って裕也と会話を続けていた。  佐々木たちは、早く説明して欲しくてヤキモキしながらも、持ってきた夏樹たちの入院用品を出しながら二人の会話に耳を澄ませていた。 「あ、来たっぽいね~。どうぞ~!」  およそ20分後、誰かが扉をノックしてきた。  ちょっと中の様子を窺いながら入って来たのは、隆文だった。 「遅くなってすまない。会が長引いてな……雪夜は寝ているのか?」 「はい、ようやく寝かしつけたんで、起こさないで下さいね」  斎が、夏樹のような口調で釘をさす。  たぶん、斎さんのことだから、今のはわざと意識した言い方したな?  佐々木は吹き出しそうになったが何とか堪えた。  その横で、相川が盛大に吹き出す。  相川……お前って奴は……  佐々木はそっと相川の後頭部を叩いた。  佐々木たちから見ても、斎と夏樹はどことなく雰囲気が似ていると思う。  見た目というよりは、仕草とか口調とか仕草とか……年齢的に、夏樹さんが斎さんに影響されたってことか? 「……顔色がいいな。少し頬がふっくらしたか?」 「固形食もよく食べてくれるようになったので、体重もだいぶ増えましたよ」 「そうか、それは良かった」  隆文がホッとした顔で口元を綻ばせ、雪夜の頬を撫でた。 「看護師長から連絡があった時は驚いたぞ?まさか彼が事故にあってうちに運ばれてくるとは……」 「ホントすごい偶然ですよね。それで、どうですか?」 「あ~……私は直接治療をしていないが、担当した医師によると……」 「……ぅ゛~~~……」  隆文がカルテを見ながら夏樹の状態について話をしようとした時、また雪夜がぐずって起きた。  夏樹から、夜は大抵うなされるし、何回か目を覚ますとは聞いていたけれど……  多くね!?っていうか、間隔が短くね!?  そりゃこれだけしょっちゅう目を覚ましてれば、二人とも寝不足になるよな……  ぅ~ん……雪夜また寝てくれるかなぁ~……  佐々木は、雪夜をもう一度寝かしつけられるか自信がなくなり、相川と顔を見合わせた。 ***

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