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夜明けの星 6-38(佐々木)
「はいはい、雪ちゃん、ナツならここだよ~」
佐々木が雪夜をどうやってあやすか考えているのを横目に、斎は、夏樹の隣に雪夜をそっとおろした。
え!?ちょっと斎さん!?そこにおろしちゃうの!?
たしかに、雪夜が入院していた時は夏樹さんもそのベッドで一緒に寝てたみたいだけど……
「なちゅしゃ……ひんっ……っく……なちゅしゃあああん……」
雪夜が寝惚けてぐずりながら夏樹の胸元に顔をぐりぐりと擦りつけた。
ぅ~ん……病院のベッドに横たわる夏樹さんに泣きながら縋り付いてる図ってちょっと……どうなんだ……?
「あ……雪夜、それはちょっとやめてあげなさい!彼は肋骨にひびが入っているから、それはさすがに痛いと思うぞ!?」
隆文が医者らしい理由で若干慌てた。
「あらら、そりゃなっちゃんもさすがに起きるしかないねぇ~!ちょうどいい目覚ましだ。雪ちゃん、もっとやってやりな!!」
隆文の言葉を聞いて、裕也と斎がケラケラと笑いながら雪夜をけしかけた。
ちょっ!?医者が止めてんのにけしかけるって……兄さんら、こえぇえええ!!
「ぅ゛~ん……」
夏樹が痛みで呻きながら顔をしかめた。
「え、あの、これ大丈夫なんですか!?」
「ひびくらい大丈夫だよ~。だいたい肋骨の骨折は治るまで安静にするしかないからね~」
「だったら雪夜を一緒に寝かすのはヤバいんじゃ……」
「だぁ~いじょうぶだよ。まぁ見ててごらん」
本気で心配してオロオロしている佐々木と相川に、裕也がにっこりと天使の……もとい、悪魔の笑顔を見せた。
ホントこの兄さんら、優しいのか怖いのかわかんねぇ!!
夏樹さん、ごめん!俺にはどうしようもねぇわ……耐えろ!!
「……ん……ゆき……や……?どした?」
佐々木が心の中で夏樹に手を合わせた時、夏樹が目を覚ました。
薄く目を開けて雪夜を見ると、また目を閉じて、そっと雪夜に手を伸ばす。
あ、夏樹さんまだ寝惚けてんな。
「なぁちゅしゃ~ん……っ……」
雪夜がボスッと夏樹の胸に抱きついた。
「ぅ゛……っ!……ゲホッ……~~~~っ、なぁに?こわいゆめみた?よしよし、だいじょ~ぶ……こわくないよ……おいで」
「ぅ~……なちゅしゃん、ねんねぇ~……」
「ん~……ねんねしよ……だいじょ~ぶ……そばにいるから――……」
夏樹は寝惚けてむにゃむにゃ言いながら、ぐずる雪夜を抱き寄せた。
夏樹が雪夜の頭に軽く口付けてそのまま気怠げにトントンと背中を撫でると、雪夜はさっきまでぐずっていたのが嘘みたいに大人しくなり、またすぐに眠った。
早っ!!
俺ら三人がかりでも大変だったのに……
佐々木がお見舞いに行く時はいつも夏樹は起きていたので、こういう姿はあまり見たことがなかったが……たぶん、この二人はいつもこんな感じなのだろう。
夏樹は夜中にうなされる雪夜に何度も起こされて、その度に寝惚けながら無意識にああやって雪夜をあやして……
そして雪夜と一緒にまた眠る。
って、夏樹さん、肋骨は!?ひびは!?
痛くねぇの!?いや、声出すの辛そうだったからたぶん痛いんだろうけど!!
その状態でよくまた眠れるよな!?どういう神経してんだ……
「ほらね?大丈夫でしょ?ちょっとひびが入るくらい、ケガに入らないんだよ。愛ちゃんの地獄の特訓受けてたら、骨折なんて可愛いもんだからね~」
「さすがのユウでも、何回か骨折したしな」
「あ~……あの時は僕も肋骨折 ったねぇ、でもいっちゃんも折 ったでしょ」
「俺はひびだったぞ。ぽっきり折れてはねぇな」
斎と裕也が物騒な話をさも青春の1ページのように懐かしげに話し、爽やかに笑う。
いや、もうホントこの人たち一体何の話してんの!?
もっと身体大事にして!?
「さてと、雪ちゃんはこのまま寝かしておけば大丈夫だろう」
「あぁ、それじゃあ、私の部屋 に場所を移すか?」
「そうですね、あ~……ユウは、一応こっちにいてくれるか?」
「おっけ~!」
「お前らは一緒に行くだろ?」
「あ、はい!」
斎に促されて、佐々木と相川も部屋を出た。
***
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