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夜明けの星 6-39(佐々木)
「――まぁ、ケガの具合としてはそんな感じだな」
隆文が、夏樹のケガについて簡単に説明をしてくれた。
足場の下敷きになったわりには、ケガは軽い。
大量に服が入った紙袋がクッション代わりになったのと、崩れた足場がそこまで高さがなかったせいで衝撃が少なかったことが幸いしたらしい。
それでも、普通ならもっと大ケガをしているレベルの事故だったので、夏樹を治療した医師たちも首を傾げていたらしい。
因みに、この病院に運ばれたのは全くの偶然だ。
雪夜が入院していた時は、ごく一部の人間としか接触しなかったものの、当時院内ではかなり話題になっていたらしく、(まぁ、ほぼ兄さん連中のせいだろうが)夏樹を見たことがあった看護師が、看護師長を通して院長に連絡を入れ、斎へ連絡が来たということだったらしい。
なんていうか……ほんと夏樹さんも雪夜も運が強いよな……
いや、こういうことに巻き込まれるのは運が悪いんだけど……
「それで、雪夜のことだが……どういうことなんだ?」
隆文は今日は会合に出ていたらしく、先ほど病院に戻って来たので、斎たちが雪夜を連れて来た理由についてはまだ詳細を聞かされていないらしい。
「あぁ、え~と、そのことですが……おい、ヤング、お前今回別荘で雪ちゃんに会った時どうだった?」
「え!?どう……とは?」
「雪ちゃんと会った時、ナツはいなかったんだろう?」
「え?いや、いましたけど?」
「その現場に?」
「現場?」
こっちに話を振って来られると思わなかったので、斎の質問の意味がわからず一瞬テンパって相川を見た。
斎さん、説明なしでいきなりぶっこんで来るから……
普段はわりと勘が良い方なのだが、夏樹が事故ったことで雪夜の精神状態が心配で……いろいろ考えてぼーっとしていたので話についていけない。
「え~と、別荘に着いたら夏樹さんがいて、雪夜はまだ寝てたから、相川は学島先生のところに行って……」
別荘に着いてからのことをもう一度振り返った。
「あ、そうだ。夏樹さんも晃さんに用事があるからって出て行って部屋には俺だけになって……俺がソファーに座ってたら雪夜が起きて来たんだ!」
だから、正確には、雪夜と会った時は佐々木一人だった。
……ってことが聞きたかったのか?
相川と一緒に斎を見ると、斎が軽く頷いた。
わっっかりにくいっっ!!
「その時って、雪ちゃんの様子どうだった?起きてきて、ヤングしかいなかった時の雪ちゃんの反応」
「え~……いや、別に……たしか――」
***
――あの時、佐々木はタブレットでレポートを作成していたので最初は雪夜が起きて来たことに気がつかなかった。
ふと気配を感じて顔をあげると、雪夜が隣に座っていたのだ。
「ぅわっ!ビックリした!雪夜起きたのか!」
「なちゅしゃ、ろこ?」
「あ、えっと夏樹さんは今晃さんに会いに……って……え!?……雪夜……だよな!?」
佐々木は雪夜をマジマジと見つめた。
「今……声……っていうか……ええっ!?あ、俺のことわかる!?佐々木だけど……」
何が起きているのかわからず、混乱して自分が何を言っていたのかよく覚えていない。
「ん~……?あ!しゃしゃち、あぃあわ!」
頭が肩につくんじゃないかと思うくらい首を傾げた雪夜が、ポンと手を叩いてニコッと笑った。
「うん、俺は、『さ、さ、き』だよ!相川ももう少ししたら来るけど……え、ちょっとマジかよ……いつから喋れるようになったんだよ、雪夜っ!」
「しゃ、しゃ、っき!」
「うん……うん……っ」
雪夜の声が出ているどころか、喋っていることに驚いて、気がついたら泣いていた。
声が聞けたのが嬉しくて……
会話を出来ているのが嬉しくて……
以前と同じように笑っているのが嬉しくて……
雪夜が一生懸命俺の名前を呼んでくれたのが嬉しくて……
舌ったらずなのが超絶可愛くて……
こんな大事なことを黙っていた夏樹さんに腹が立って……
泣き出した佐々木を、雪夜がよしよしと撫でてくれているところに、夏樹が帰ってきたのだった。
***
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