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夜明けの星 6-44(夏樹)

「失礼します……」  裕也の後ろから顔を出したのは、男女二人。    ん~?この二人、何か見たことあるな……あぁ、そうか…… 「夏樹様、突然押しかけてしまって申し訳ございません。お加減はいかがでしょうか?」 「見ての通りです。ただ、長く話すのはキツイので手短にお願いします」  別に、大声を出さなければ大丈夫なのだが、相手をするのが面倒なので暗に早く帰れと言っておく。 「はい!それはもう……承知いたしております!」 「それで、今日はどうしたんですか?」 「この度は……――」  男は夏樹が事故った店のオーナー兼店長だ。  夏樹があの店に入ったのは初めてだったし、オーナーとは買い物をしている時に話をした程度で、別に知り合いというわけではない。  オーナーは、事故についての謝罪と、夏樹が店の子を助けてくれたことへの感謝を述べた。  今回の事故については、夏樹の知らない間に兄さん連中が対応してくれているらしいので、任せてある。  だが、夏樹が助けた子はオーナーの姪らしく、一度直接会ってちゃんと謝罪と感謝を述べたかったらしい。 「そうですか」  夏樹が、短く返事をすると、オーナーは続けてお見舞いの品を出して来た。 「あの日ご購入いただいた商品は、ほとんどがラスト一枚という商品ばかりだったのですが、事故のせいでせっかくご購入いただいた商品がダメになってしまったので……」  服については、全額返金ということで話はついていた。  でも、それとは別に、今回購入していた商品と同じ商品を特別に用意してくれたらしい。 「え!?」  オーナーから紙袋を受け取り、中身を確認する。  たしかに、夏樹が購入したものと同じ服が入っていた。  サイズもカラーも同じだ。 「ありがとうございます!この服気に入っていたので嬉しいな~!」  夏樹が持っていた紙袋の中には、他の店で買った服も混じっていた。  さすがに他の店の分は諦めるしかないが、あの紙袋の中身の半分が戻って来たのは嬉しい。  よし、後で雪夜に着せてみよう!! 「喜んでいただけて幸いです」  オーナーがほっとした顔で笑った。  そこまでは良かったのだが……  服を手に取って喜ぶ夏樹を見て満足そうに笑うオーナーを、隣にいたオーナーの姪が少しイラついたように肘で突いた。 「ん?ああ、そうだな。あ~、夏樹様、入院中は何かと手が必要でしょうから、この子に何でも言いつけて……」 「あ、間に合ってます」  夏樹はオーナーの言葉を途中でぶった切った。  やっぱり……そういうことか……  この部屋に入って来た時から、姪の夏樹を見る目や様子があからさまだったので、最初に「手短に」と釘を刺したのだ。 「え?いやあの、本人も夏樹様に助けていただいたので、いくらでもお力になりたいと……」 「幸いにも私を助けてくれる手ならたくさんありますから、必要ないです。お気持ちだけで結構です」 「あ……そう……ですか」  意外にも相手が話を続けてきたので、もう一度ぶった切って先ほどよりは丁寧に答えると、さすがにオーナーは口を閉じた。  その代わりに、オーナーを押しのけて姪が前に出て来た。 「あの、私本当に何でもします!女手があった方がきっと便利だと思いますし……」 「いえ、必要ないです。言ったでしょう?手ならたくさんありますから。女手もありますのでご心配なく」 「でも……!」  あ~うぜぇ!!  イラッとした夏樹は、服を紙袋に戻し、紙袋ごと女の足元に投げた。 「日本語わかりますか?迷惑なんですよ。その服があなたの押し売りと引き換えなら、その服もいらないです。持って帰って下さい。不愉快だ」  肋骨が痛むので、なるべく興奮しないように抑えて淡々と話す。  その代わり、不愉快オーラは全開にしていた。 「あ、いえ、決してそういうことではありませんので!この服はお見舞いの品ですから、ぜひ受け取って下さい!」  オーナーが慌てて紙袋を拾いもう一度持ってきた。 「ご気分を悪くしてしまい申し訳ございません。これに懲りず、退院された際には、ぜひまたお店にいらしてください!ほら、サオリ帰ろう!」 「え、ちょっとおじさん!?私はまだ……」 「サオリ!長居するものではないよ。それに手は足りているとおっしゃっているだろう?諦めなさい!――」    オーナーは文句を言う姪の背中を押しながら、ぺこぺこと頭を下げつつ急いで部屋から出て行った。 ***  扉が閉まると、夏樹は大きく深呼吸をした。 「ぅ゛……ゲホッ……」  疲れた……  脱力して目を閉じていると、ベッドが軋んだ。 「なちゅしゃん?よちよち」 「ん~?あ、ごめん、起こしちゃったか」  片目を開けると、雪夜が起き上がって夏樹の胸元をナデナデしていた。  オーナーたちと話している間も雪夜は夏樹の隣で眠っていたのだが、掛布団を頭まで被せ、夏樹が少し片膝を立てて膨らみを誤魔化していたので、ベッドから離れていたオーナーたちは気付かなかったらしい。   「なちゅしゃん、ねんね?」 「うん、疲れた~。夏樹さんのために雪夜ももうちょっと一緒に寝よう?」 「ゆちや、なちゅしゃん、トントンよ。ねんね~」  もう眠たくないのか、雪夜は座ったまま夏樹のお腹をトントンと軽く叩いた。 「ありがと。おいで、雪夜。ぎゅ~っ!させて?」 「あい!」  ぎゅ~っ!はして欲しいらしく、雪夜が喜んで夏樹に抱きついてきた。  あ~、癒しぃ~!! 「ぎゅぅ~!」 「にゅぅ~!」 「二つ合わせて、牛乳~!」 「にゅ?」 「ごめん、言ってみたかっただけです」  雪夜に真顔で首を傾げられて、夏樹も真顔で返す。  ダメだ、俺疲れてるわ…… ***

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