435 / 715
夜明けの星 6-46(夏樹)
「やっほ~!牛乳持ってきたよ~!」
相川が手に持っていた袋を掲げながら部屋に入って来た。
「ブフォッ!……ぅ゛……ゲホッ……」
夏樹は飲みかけていたお茶を盛大に吹き出すと、肋骨を押さえながら咳き込んだ。
そんな夏樹の隣で、一足先に来て全く同じ登場をした佐々木が、腹を抱えて爆笑する。
「うわ、汚ねぇな……なんだよ夏樹さん!」
相川ぁ~~!!
「おま……ゲホッ……お前もかっ!!」
「え?何が?」
「牛乳!!」
「あ~、何か、裕也さんから『次にお見舞い行く時は牛乳を持って行くように!』って連絡が来たから、骨折を早く治すためにカルシウム摂りたいのかと思ったんだけど……違うの?」
「相川、それがさぁ……実は全然違うかったらしいぞ!――」
曇りなき眼で首を傾げる相川に、佐々木が笑いながら“牛乳”の真相を話した。
***
“牛乳”の真相とは……
少し前に、いろいろあって疲れていた俺は、ちょっとした独り言を呟いた。
それを裕也に聞かれていたらしく、
「だってさ~、なっちゃん疲れただろうから部屋に戻るのちょっと待ってあげようかな~と思って、部屋の様子を(盗聴器で)窺ってたら聞こえちゃったんだもん。僕なんてコンビニに入った瞬間に不意打ちの『二つ合わせて、牛乳~!』が聞こえたせいで、“吹き出しながら入店してきた変な客”になっちゃったんだからね!?めちゃくちゃ恥ずかしかったんだから!!」
と逆ギレされてしまい、それ以来、見舞いに来る人がみんな牛乳を持ってくるようになった。
つまり、逆ギレした裕也による、他の兄さん連中も巻き込んでの『牛乳いじり』だ。
あ~もう!……裕也さん勘弁してよぉ~……!
「ふむふむ、ぎゅ~!と、にゅ~!で、牛乳……と……?ブハッ!!」
話しを聞いた相川が、吹き出しながら夏樹を指差した。
「指をさすな!!」
「いや、これは笑うわ~。夏樹さんがそんなこと言うとか意外だし~!!」
「うるさい!その日はいろいろ疲れてたんだよっ!!」
「あははは!……あれ、じゃあ牛乳はいらなかったの?」
「あぁ、いや、雪夜が気に入って飲んでるからいいよ。俺もまぁちょこちょこ飲むし」
兄さん連中が持って来てくれる牛乳は、わりと濃厚で甘味が強いものが多い。
そのせいか、雪夜が気に入ってよく飲むようになった。
とは言え、見舞いに来る人みんなが持ってくるので、結構な量が集まるため、雪夜だけでは賞味期限内に飲み切れない。
仕方がないので、夏樹も一緒に飲んでいる。
「それで、雪ちゃんはどこにいるの?」
「あぁ、雪夜ならそこに……」
爆笑する相川たちと夏樹のやり取りなど気にもせず、雪夜はベッドの横に座り込み、佐々木からもらった200mlの紙パックの牛乳にストローを突っ込んで、ちぅちぅと音を立てながら飲んでいた。
「お~、雪ちゃん美味しいか~?」
「……っ!!」
相川が雪夜の隣にしゃがみ込むと、雪夜がストローから口を離さずに、うんうんと頷く。
「いっぱい飲んで大きくなれよ~!」
「っ!?」
雪夜は、ぷはっ!とストローから口を離して軽く首を傾げた。
「ゆきや、にゅうにゅうのんでおっきくなる!?」
雪夜が相川をキラキラした目で見上げる。
「なるなる。俺も子どもの頃いっぱい飲んだし!」
「おお~!なつきしゃん!なつきしゃん!ゆきやおっきくなる~!」
雪夜がベッドに戻って来て、両手を上にあげながら夏樹に「大きくなる」宣言をした。
「うん、そうだね。でも、一度にいっぱい飲んでもダメだからね?お腹痛くなっちゃうから一日に飲む量はこれ以上増やさないよ!?」
「え~……ゆきやおっきくなるないよ?」
「心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと大きくなるよ」
うん、後数センチは伸びる……といいね?
まぁ、俺としては今のままで十分だけど!!
夏樹は苦笑しながら雪夜の頭を撫でた。
***
ともだちにシェアしよう!