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夜明けの星 6-50(夏樹)
「それで、雪ちゃんはどうだ?やっぱり、お前が言ってたような状態か?」
「そうですね、たぶん……」
雪夜がパニックになってから二ヶ月ほど経った。
その間、ほとんど雪夜に放置されていたおかげで、夏樹のケガはほぼ完治した。
放置されていたとは言え、同じ部屋でずっと過ごしていたのだから、夏樹もただふて寝をしていたわけではない。
雪夜の様子が変わってから気になっていたことがあったので、斎には少し前にチラッと話してあったのだ。
そう……別にふて寝だけしてたわけじゃ……
ってことは、ふて寝はしてたのかって?
もちろん、してましたよ!?
だって、雪夜が全然構ってくれないんだもん!!!ふて寝するしかないじゃんか!!
もぅ!!二ヶ月もの間、すぐ隣で放置とかどんだけ!?夏樹さん、切実に雪夜不足なんだけど!?
「おい、ナツ?どうした?」
「あ、すみません、ちょっと雪夜不足でボーっとしてました。えっと、ハッキリした年齢はわからないですけど、やっぱり3歳児よりも上の年齢になっている時がありますね」
「ふぅ~ん……」
斎は夏樹のおバカ発言を華麗にスルーすると、軽く首を傾げながら、隣のベッドで眠っている雪夜を見た。
***
これまでの雪夜は、階段から落ちた衝撃、光景から、事件に巻き込まれた時のことを思い出して当時の3歳児の状態に戻っていると考えられていた。
実際、周囲の人間に対する反応や、こちらの呼びかけに対する理解度や仕草は3歳児そのもので、当時との違いと言えば、夏樹や兄さん連中に甘えたりわがままを言ったりして、むしろ当時よりも3歳児らしくなっていたことだ。
言葉に関しては、しばらく声が出ず、喋っていなかったせいか2歳児レベルまで低下していたものの、発声や滑舌がうまく出来ないだけで、こちらの言葉は理解していた。
だが、現在の雪夜は、たぶん3歳児よりも年齢が進んでいる。
というか、日によって精神年齢の振れ幅が大きい。
3歳児の時もあれば、もしかして実年齢くらいに戻っているんじゃないかと思うような時もある。
ほとんど喋らないので、詳しくはわからないものの、雪夜の表情や仕草からそう感じるのだ。
「ちなみに、今日は何歳くらいだ?」
「今日は……今朝の様子だと……小学生くらいですかね」
夏樹がそのことに気づいたのは、雪夜と同棲を始めた頃に不安定になった雪夜が、今と同じように年齢も不安定でいろんな年齢を行ったり来たりしていたことがあったからだ。
最初はそんな雪夜の様子に戸惑ったが、慣れてくればその年齢に応じた対応をしていけばいいだけだし、総じてドロッドロに甘やかすのが一番だとわかったので、あまり苦にはならなかった。
そうなんだよ……甘えてくれれば……甘やかさせてくれれば……
全然苦にならないんだけどな~……
「小学生か……それでも喋らないか?」
「喋りませんね……一応挨拶は返してくれますけど、それ以外はほとんど口は開きません」
「滑舌は?」
「まぁ、今朝はわりと滑舌良い方だったと思いますよ?」
今はほとんど喋らないので、だいたい朝の挨拶でその日の精神年齢を見分けている。
大きく分けて、『ぉあよ~』か『おはよー』か『おはよう』か『おはようございます』だ。
『おはようございます』を聞いたのは、まだ片手で数えられる程だと思うが、初めて聞いた時は一瞬全身が震えた。
もしかして、元に戻ったのかもしれないという期待と、その後雪夜がどんな反応をするのかという不安が入り混じって、笑顔が強張ったのを覚えている。
まぁ、それも結局翌日には『ぉあよ~』に戻っていたが……
今朝聞いたのは、『おはよー』だったので、たぶん今日の精神年齢は小学生くらいだと思う。
「そこまで精神年齢の振れ幅が広がってるってことは、キャンプ以降の記憶の部分まで整理が進んでるってことかな~?」
斎が軽く顎を撫でながら、誰に言うともなく呟いた。
「そうかもしれないですね……」
「ってことは……おっと……」
雪夜がモゾモゾと動いたので、斎が言葉を切った。
***
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