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夜明けの星 6-51(夏樹)
「雪ちゃん、おはよ~」
斎が、もそもそと布団から頭を出してきた雪夜に声をかけた。
空調がきいているとはいえ、そんなに布団を被ると暑いと思うのだが、雪夜はひとりで昼寝をする時は必ず頭の上まですっぽりと布団に包 まっている。
そのため、いつも昼寝から起きると汗だくになっている。
「……?」
雪夜は、斎と目が合うとちょっと驚いた顔をし、慌てて布団を跳ねのけてキョロキョロと室内を見渡した。
「雪ちゃん、どした?あ、俺のことわかる?斎さんだよ?」
「……こ?」
「ん?」
「なちゅしゃん、ろこぉおおお!?なちゅしゃあああん!!」
「おわっ!?」
雪夜のために冷蔵庫からお茶を取り出していた夏樹は、急に雪夜の泣き叫ぶ声が聞こえたので、驚いて思わずペットボトルを床に落とした。
え、なに!?何事!?
「ちょ、待て待て!雪ちゃん、どこ行くつもりだ!?ナツならそこにいるぞ!?……おい、ナツ!!」
ベッドから下りて入口に向かおうとする雪夜を、斎が引き止めてベッドに戻した。
「ぃやんよっ!!なちゅしゃん、いくのっ!!」
「はいっ!!ここですっ!!ここにいるよ~!?」
「なちゅしゃあああんっ!?」
「はいはい!夏樹さんここだよ~!?」
夏樹はペットボトルを拾って慌てて立ち上がった。
「ここにいま~す!どうしたの?怖い夢でも見……た?」
「なちゅしゃ~ん……っ!!」
夏樹がペットボトルをサイドテーブルに置いて振り返ると、雪夜が顔をくしゃくしゃにして泣きながら両手を広げて待っていた。
ん?ぎゅってしていいんですか?
夏樹も反射的に両手を広げたものの、雪夜にはしばらく拒否されていたので、一瞬何が正解かわからずそのまま固まった。
「えっと……ぎゅ~する?……のかな?」
「ぎゅ~!しゅるの!!」
「あ……はい!だよねっ!?よし、おいで~!!」
久々に雪夜から抱きついてくれたので、嬉しくてちょっと強めに抱きしめた。
一応、夜はずっと一緒に寝ているけれど、雪夜が起きないようにそっと抱きしめるだけだったから、ちゃんと抱きしめるのは本当に久々……
約二か月ぶりだ……
二か月ぶりのハグ……
二か月ぶりの「なちゅしゃん」……
え、ちょっと俺泣いていい?
……って、感動してる場合じゃない!!
あれ……ちょっと待てよ?今の喋り方だとまた3歳児に戻ってるのか?
今朝はもう少し滑舌良かったはずだけど……
頭の中ではいろいろと混乱していたが、それはともかく……
「どうしたの?雪夜。大きい声出たね~!」
雪夜の顔を覗き込んで、涙を拭いてやりながら笑いかけた。
「ゆきや、おきたの、なつきしゃんいなかったよ……!?」
「え、あ、うん、そこにいたけどね?しゃがんでたから見えなかった?」
少し落ち着いたのか、雪夜の滑舌がちょっとだけ良くなっていた。
「いなかったのっ!!」
半泣き状態の雪夜がむぅっと頬を膨らませた。
かなりご機嫌斜めだ。
だが、雪夜には悪いが、夏樹はそんなプンプン怒っている雪夜の様子も愛おしくて……無意識に頬が緩んでいた。
やっぱり、今日は3歳児よりは少し上だな。でも今朝よりは幼くなったか?
さ行が怪しいのは、たぶん興奮してるせいだろうけど……
っていうか……どうしたの、雪夜さん!?めちゃくちゃ喋るじゃないですか!?
「うん……うん、ごめんね?俺が見えなかったからびっくりしたの?」
「おはよ~って、ぎゅ~って、なかった!!」
「あ、おはよ~!」
夏樹が顔の横で軽く手を振って挨拶をすると、雪夜がその手をペチンと叩いた。
「あ痛 っ……あははっ!え、なに?これじゃないの?」
だめだ、ごめん。今の俺、雪夜が何しても笑っちゃう!
「ちが~うの!ゆきやおきたの、なつきしゃん、おはよ~って……」
「あ~……はははっ!はいはい、わかった。起きた時に俺がすぐに「おはよ」って言わなかったから怒ってるんだ?」
「……」
雪夜がちょっと考えるように首を傾げて、うんうんと大きく頷いた。
マジか……怒ってる理由そこなの!?
「そうかそうか、ごめんね」
夏樹は、笑いを噛み殺してもう一度謝ると、雪夜をぎゅっと抱きしめて頭に口付けた。
雪夜は、怒っている理由が伝わったので満足したのか、久々に叫んで疲れたのか、夏樹が背中を撫でているとまたウトウトして眠ってしまった。
もっと話をしたかったけど……でも、雪夜から抱きついてくれるのも、昼間から腕の中で寝てくれるのも久しぶりだし……まぁこれはこれでいいか!
夏樹は腕の中の温もりと重みに、久々の幸せを噛みしめていた――……
***
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