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夜明けの星 6-53(夏樹)

 斎と話している間も、雪夜は度々目を覚ましては夏樹の存在を確認して、また眠って……を繰り返していた。 「それにしても、よく寝ますね……」 「まぁ、そんだけ精神状態が不安定だと、また脳がフル回転だろうしな」  ってことは……やっぱり寝てる時も休めていない状態になってるってことか…… 「ぅ~ん……無理やり眠らせた方がいいんですかね?」    常に記憶の整理をしているせいで脳が休まらないから、起きている時もボーっとしていたのだ。  一度薬を使ってでも無理やり睡眠を取らせた方がいいかもしれない……   「その点はもう大丈夫じゃね?」 「え?」 「快眠ベッドが戻って来たんだし?」  そう言いながら、斎が夏樹を指差した。 「……俺?ベッドですか?」 「枕でもいいけど?」 「そういう問題!?」 「お前がいれば睡眠薬必要ないんだからそういうことじゃね?」  んん!?それは喜ぶべきなのか悲しむべきなのか……  ちょっと複雑だけど、まぁ、雪夜が眠れるなら布団でも枕でもいいか…… ***  翌日。  先に目を覚ました夏樹は、若干緊張しながら雪夜の起床を待った。  昨日は久々によく喋ってくれて、抱きついてくれたけど……  今日の雪夜の反応はどうだろう?   「……ん~~……」  目を覚ました雪夜が、目を擦りながら身体を起こした。 「おはよう雪夜、ぎゅ~させて?」  夜寝ている時は抱きしめているとはいえ、無意識だ。  ちゃんと起きている時に、雪夜の意思で来て欲しい。 「……おはようございましゅ」 「っ!?……あ、うん……え~と……ぎゅ~は?ダメ?」 「……」  雪夜が無言で頷くと、隣のベッドに移動した。  昨日とは雰囲気が違う。  う~ん……来てくれないのか……  こうなるパターンも予測はしていた。  日によって精神年齢が違うわけだし、雪夜の態度にも変化があるのは当たり前だ。  ただ、今朝は予想外の『おはようございます』に動揺してしまった。  少なくとも、こういう挨拶をするということは、ある程度の年齢だとは思うが……  今朝は何歳くらいなんだろう?どこまでわかってる?  まぁ、それはともかく…… 「雪夜?あのね、おかげさまで俺もう元気だよ?」 「……?」 「しばらく安静にしてたから、もう元気なんだよ。だから、ぎゅ~しても痛くないよ?それでもダメ?」  斎が言うように、雪夜が抱きついてこなかった理由の一つが夏樹のケガを早く治すためだったとしたら、もう治ったということがわかれば……どの年齢でも抱きついて来てくれるんじゃないだろうか。  っていうか、来てくれないと困ります!! 「……ほんと?」  雪夜が夏樹の話しに食いついて来た。  少し乗り出し気味に夏樹の様子を窺ってくる。 「うんうん、本当だよ。昨日のこと覚えてない?昨日雪夜のことちょっと強めにハグしたけど全然痛くなかったよ?」 「……」  雪夜が記憶を辿るように少し視線を泳がせた。 「ほんとに、いたくない?」 「うん、痛くないよ。全然大丈夫。ほら、おいで?」  夏樹が両手を広げて呼ぶと、雪夜がまた夏樹のベッドに戻って来た。  おずおずと近寄ってくる雪夜の腕を掴んでグイッと抱き寄せる。 「ぎゅ~!」 「……っ」  夏樹が少し力を入れて抱きしめると、腕の中で雪夜がフフッと笑った。  っ!?笑った!! 「ね?大丈夫でしょ?」  雪夜の笑顔が見たくて急いで顔を覗き込んだが、その時にはもう真顔に戻っていた。  くそ~!惜しかった!  でも、さっきよりは少し表情が柔らかくなったかな? 「よかった……」 「うん、心配かけちゃってごめんね?」 「……あの……あの……もういっかぃ……」  雪夜が俯いて、指先を弄りながらもじょもじょと呟いた。 「ん?もう一回?」 「……あっ!……いえ、あの……なんでもな……」  雪夜が慌てて手を振った。 「いいよ?っていうか、一回でいいの?俺はもっといっぱい抱きしめたいんだけどな~?」 「ふぇ!?あああああのっ……~~~っ!?」  夏樹が膝の上に抱き上げると、雪夜は真っ赤になった顔を隠すように夏樹の肩に顔を押し付けて来た。  うわっ……ヤバい……っ!!  この反応懐かしい……!!    雪夜につられて思わず夏樹まで照れてしまう。  っていうか、ちょっと待って!?もしかして雪夜さん、もしかしなくても…… 「ねぇ、雪夜……キスしてもいい?」  今何歳か聞こうと思ったのに、口をついて出て来たのは全然違う言葉だった。  ええ、そうですとも!!欲望に忠実ですが何か!? 「……ふぇ?」 「イヤ?」  驚いた顔で夏樹を見上げて来る雪夜に、少し小首を傾げて一応確認する。 「え、あの……いやじゃな……んっ!?」  この流れでイヤって言われてたら、確実に俺そこの窓から飛び降りてたよね。うん。  とは言え、一応ここは病院だ。  途中で止められなくなると困るので、グッと堪えて軽めのキスにした。 「っ……ぁ」  口唇を離すと、気持ち良さそうに蕩けている雪夜の表情(かお)に思わず口元が緩んだ。  はい、可愛い……!!  あ~~押し倒したいっ……けど、んん゛~~~っっっ!!!今はまだ我慢っっ!!!   ***  

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