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夜明けの星 6-56(夏樹)
「雪夜、今からちょっとだけ佐々木たちと一緒に遊んでてくれる?夏樹さん検査して来なきゃだから。すぐに戻るからね?」
夏樹は佐々木たちと絵合わせカードで遊んでいた雪夜に、さりげなく声をかけた。
「なつきしゃん、おでかけ?」
遊びに夢中になっていたはずの雪夜が、サッと振り向いて夏樹の服を握った。
「うん、検査ね」
「ゆきやもいくでしゅ!」
「行っても面白くないよ~?ほら、佐々木と相川がいるから、一緒に遊んでくれるって」
「雪夜、俺らと一緒に遊んで待ってよう?検査だから、夏樹さんすぐに帰って来るよ」
「雪ちゃん!チョコ食うか!?」
「ちょこ!?たべましゅ!」
お、相川ナイス!
「よし、じゃあ、夏樹さんに行ってらっしゃいって!」
「……なつきしゃん、いってらっしゃい」
相川からもらったチョコを握りしめて、雪夜が渋々呟く。
……が、
「うん、雪夜くん、この手離してくれないと行けないんだけどな~?」
雪夜の片手はしっかりと夏樹の服を握りしめていた。
「なつきしゃん、ちょこどうじょ?」
雪夜が話しを逸らそうとして、夏樹にチョコを渡して来た。
「ありがとう。でもこれは雪夜が食べていいよ?すぐ帰って来るからね、約束!」
「なつきしゃん、ちゅぅ!」
「ん~?はいはい、ぎゅ~!行ってきま~す!」
夏樹は苦笑しながら雪夜をぎゅっと抱きしめて、頬に軽く口付けると部屋を出た。
***
今日の雪夜は、滑舌は悪いものの年齢的にはたぶん5~7歳くらいだと思う。
佐々木たちも雪夜の様子を見ながら、その日の年齢にあわせた内容で遊んでくれているが、今日は絵合わせカードよりもトランプの方がいい気がする。
もう大富豪とか余裕で出来そう……
斎と退院の話しをしてから、およそ一週間。
雪夜はその日によって精神年齢に違いはあるものの、夏樹が元気になったことがわかって、夏樹への態度は元に戻って来た。
「……うわっ!?」
「いらっしゃ~い!」
夏樹が院長室のドアをノックしようとした瞬間、先にドアが開いた。
「見てたんですか?」
「まあね~」
裕也が当然でしょ?という顔で笑った。
まぁ、そうですよね。
部屋に入ると、斎と工藤も来ていた。
今日は検査というのは嘘で、隆文たちと話をするために部屋を出たのだ。
「おう、今日はすんなり出て来られたな」
「俺が自分で部屋を出るのは問題ないみたいですね」
二か月前に夏樹が車椅子でそっと出て行こうとした時は、雪夜がパニックになって大変だった。
看護師に連れていかれようとしている風に見えたのがダメだったらしい。
しかも、この時は男性看護師だったので、余計に……犯人のことがフラッシュバックしてしまったようだ。
夏樹が自分の足で出て行く姿にはあまりフラッシュバックするような記憶はないらしく、佐々木たちが相手をしてくれれば何とか待っていられるようになった。
まぁ、検査に行くと言ってから一時間程引き止められるけれども……
ちなみに、出掛ける時の「ちゅぅ」は「にゅ~ !」の進化系ではなく、「キス」の方だ。
一週間前に久々に通常状態に近い雪夜に戻ったのが嬉しくて思わずキスをしてしまったせいで、年齢が下がっている時でも雪夜がキスをせがむようになってきた。
別荘では薬を飲む時に口移しでジュースを飲ませていた時期があったけれど、言葉が出るようになってからはその必要がなくなったので4月の中旬頃からは全然していなかった。
どうやら、それが雪夜的には密かに不満だったらしい。
しかも先日のキスで、キス=飲みものが甘くなる。から、キス=気持ちイイ。になったらしい。
ははは、うん、完全なる自爆です。
雪夜にキス出来るのは嬉しいよ?
雪夜が俺とキスしたいと思ってくれるのも嬉しいよ?
そもそも、身体は大人のままだし、恋人なんだから別に問題はない。
とはいえ、ほら……やっぱり……ね?
いくら相手が雪夜でも、さすがに……
でも、無邪気に迫られると、つい手を出したくなる。
試される理性!!いや、自分のせいなんだけれども……!!
「おいナツ、いつまで突っ立ってんだ?座れよ」
「あ、はい。雪夜の様子は?」
斎に促されて椅子に座った夏樹は、ノートパソコンで病室の様子を見ていた工藤に話しかけた。
「そうですね、きみが部屋を出た時はちょっと不安そうでしたけど、佐々木くんたちが上手く遊びに誘導してくれて気を紛らわせてくれてますね」
「そうですか」
夏樹も横から画面をのぞき込む。
ちょっと不機嫌そうな顔はしているものの、相川にもらったチョコをモグモグしながら、佐々木たちと遊んでいる雪夜が見えた。
うん、うちの子可愛い!
***
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