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夜明けの星 6-60(夏樹)

「さてと……」  兄さん連中に室内の荷物を運び出してもらった俺は、ベッドの上でお絵描きをしていた雪夜に向き直った。 「雪夜、お待たせ!」 「なつきさん、みて~!」  鼻歌交じりにお絵描きをしていた雪夜が、嬉しそうに謎の絵を見せてきた。  今日の雪夜は3~4歳くらいだが、だいぶ滑舌がいい。  その代わり、一音一音を正確に発声するために、ゆっくりと喋っている。 「ん?ああ、お花描けたの?上手だね!」 「あ~い!」 「雪夜、ちょっとお話聞いて?」  お絵描きボードを横に置いて、雪夜の手を握る。 「おはなし?」 「今から雪夜は俺と一緒に退院して、別荘に帰ります。だから、一旦お外に行きます」 「おそと……」 「お外にはもう雪夜が怖がってた鬼さんはいないよ」 「……ほんとに……オニさんいない?」  雪夜が不安そうに夏樹を見上げて来る。 「うん、でもね、人がいっぱいいると思う。裏口から出るから、車まではあんまり人には会わないと思うけど……今回も俺が抱っこしていくから、怖くなったら目瞑ってていいからね」  今回の入院では、途中一瞬フラッシュバックはしたが、あの時以外は人が鬼に見えることはなく、その後、落ち着いてからは看護師や医師も、鬼には見えていないらしい。  だから、前回程心配はしていないが……雪夜は元々人混みが苦手だ。  鬼には見えなくても、大勢の人を見れば恐怖感を感じるかもしれない。 「……オニさん……いない……」 「人はいっぱいいるかもしれないけど、みんな雪夜には何もしてこないから大丈夫だよ。何かしてきても、俺がいるから大丈夫。俺が守るから大丈夫。ね?」 「なつきさんも……いっしょ?」 「うん、そうだよ。俺も一緒に行くからね」 「あ~い!」  雪夜がようやく納得して、にこっと笑った。 ***  前回は職員にも会わないようにそっと下におりて行ったが、今回は雪夜をナースステーションに連れて行った。  外に出る前に夏樹たち以外の人を見ることに慣らすためと、本当に鬼に見えていないのか最終確認の意味も込めて。 「あ、雪夜くん、夏樹さん!」 「どうも。ほら、雪夜……ん?雪夜?お~い、まだ大丈夫だよ。ほら、目開けてごらん?雪夜の知ってる看護師さんばっかりでしょ?」  部屋を出るなり夏樹にぎゅっとしがみついていた雪夜は、もうすでに目を固く閉じて周りを見ないようにしていた。 「やっぱり……まだ私たちはアレに見えてるのかしら……?」  このナースステーションにいる人はみんな雪夜の事情を把握しているので、前回も今回も雪夜には細心の注意を払って接してくれている。  今も、夏樹の近くに寄ってきているのはチーフだけで、後はみんな距離を取って遠くから様子を窺ってくれていた。 「いや、もう大丈夫なはずなんですけど、外に出るっていうのでちょっと緊張してるみたいで……ゆ~きや?こっち向いて?」 「~~~~っ!!オ、オニしゃんいないっ!?」 「うん、いないよ~。大丈夫。夏樹さん今お話ししてたでしょ?」 「……いない……」  夏樹に促されて、恐る恐る目を開けた雪夜が、ほっと息を吐いた。    よし、鬼には見えてないみたいだな。 「うん、いないでしょ?ほら、ちゃんとお顔見せて?看護師さんたちに、ありがとうございましたって」 「ありあとごじゃました!」  夏樹と一緒に雪夜も慌ててペコッと頭を下げた。 「いいえ~、二人とも元気になって本当に良かった。雪夜くんも……上手にお話出来るようになって……」  前回の状態を知っているだけに、チーフがうるうるしながら鼻をすすった。 「本当にお世話になりました。また定期検診で来ると思うので、その時はよろしくお願いします」 「はーい!あ、夏樹さん、くれぐれも事故には注意してくださいね!?」 「あ、はい。気を付けます」  夏樹は、看護師に苦笑いを返した。  あんな事故に巻き込まれることなんて滅多にないと思うが……まぁ、何があるかわからないのが人生だし。  気を付けよう……いや、ホントに……!!  せめて雪夜が全て思い出して、受け入れて、また実年齢に精神(こころ)が追い付くその日までは……雪夜のためにも、自分を大事にしよう――…… ***

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