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夜明けの星 6.5-1(夏樹)

「はい、二人ともそこでスト~~ップ!!」  夏樹の声に、こちらに向かってドタドタと走って来ていた瀬蔵(らいぞう)愛華(あいか)が急ブレーキをかけた。  が、もう年のせいか反応が鈍くなっているらしく、急には止まれずに二人がその場でぐるぐる回りながら足踏みをした。 「ぅおっとっと……おい、ナツよ。も~ちょっと近くに行ってもいいんじゃねぇか?」 「ダメです。今の雪夜にしてみれば、瀬蔵のおっさんも愛ちゃんも初めて会う人なんですから!そうじゃなくても瀬蔵のおっさんの顔はドアップに耐えられないんですから、距離を取ってください!ほら、雪夜が怯えてるじゃないですか!」  夏樹は、自分にしっかりとしがみついて顔を隠している雪夜の背中をポンポンと撫でた。  そんな夏樹の後ろで、斎と裕也が笑いを噛み殺していた。 「あらら……悪かったねぇ、早く会いたくて思わず……」  文句ばかり言う瀬蔵と違って、愛華は申し訳なさそうな顔で雪夜を見た。   「せめてゆっくり歩いてきてくれれば良かったんですけどね……」  ちょっと言い過ぎたかな……  しょんぼりと項垂れる愛華たちに、夏樹は若干胸が痛んだ。  いや、でも愛ちゃん、さっきの勢いで雪夜に抱きついてたら、確実に雪夜吹っ飛んでたからね!? ***  ――夏樹は、雪夜を連れて別荘に戻る途中、白季組(実家)に寄っていた。  白季組に顔を出すのは、雪夜が倒れて以来だ。  一応連絡は取りあってはいたが、なんせこれでも瀬蔵も愛華もいろんな意味で有名なので、下手に病院にお見舞いに行こうものなら、二人の弱みを握ろうと他の組織の連中が病院に押しかけてしまう。  そいつらが直接こちらに向かって来てくれればいいが、病院全体を人質に取られるとさすがに守るのが大変なので、お見舞いには来るなと言っておいたのだ。    まぁ、そうじゃなくても雪夜は人が鬼に見えていたので、瀬蔵や愛華が来たところでゴリラ鬼が二匹増えたとしか思わなかっただろうし……  愛華が心配するので、雪夜の状態は度々報告していた。  春先から雪夜の体調が良くなってきていたので、そろそろ愛華たちも別荘に会いに行きたいという話をしていた矢先、今度は夏樹が入院したので、愛華がキレた。   「凜坊が入院したせいで、また雪坊に会えなくなっちまったじゃないか!まったく、何してくれてんだい!さっさと治して雪坊を連れて来な!!」  とのことだった。  ねぇ、愛ちゃん?俺これでもあんたの息子!!あんたの息子は俺!!  息子の身体も少しは心配してよ~!!  それはともかく、愛華と瀬蔵がご機嫌斜めなせいで、組員への指導や特訓がエグイことになっているらしく、若いのが怯えまくっているのでどうにかして下さいと白季組の方から泣きの連絡が入った。  無視しても良かったのだが、あまりにも何回も連絡してきて鬱陶しいので、仕方なくこうして別荘に戻る途中に顔を見せに来たのだ。 *** 「――まぁ、慣れるまでは仕方ないねぇ。ようやく会えたんだ、元気そうな姿をこうやって見られただけでも良しとしようじゃないか」  雪夜の姿を見てちょっと機嫌が直ったのか、愛華が瀬蔵を(いさ)めた。 「そうだけどよ~……」 「雪坊、驚かしちまってごめんよ。私は愛華っていうんだ。愛ちゃんママって呼んでおくれね?」 「あ、(おら)っちは瀬蔵パパって呼んでおくれ!」  二人が雪夜に初めて会った時と同じようなことを言った。  夏樹にしがみついていた雪夜が、一瞬ピクリと反応したが、まだ二人の方を見ようとはしない。    何となく、記憶に残っているのかな?  そりゃこの二人は強烈だもんな~…… 「はいはい、急には無理ですよ。もうちょっと慣れるまで待って下さい。白季組(ここ)にも初めて来たんですから……」 「あぁ、そうなるんだねぇ……ま、ひとまずお茶でも飲みながらゆっくり話を聞かせておくれ」  愛華に促されて、愛華と瀬蔵からは少し距離を取りながら何となくみんなで車座になって座った。 「そういえば、今回はリムジンじゃなくて大丈夫だったのかい?」 「あぁ……はい、何とか……」  夏樹は、愛華に歯切れの悪い返事をした。 「まぁ、大丈夫だったと言えば大丈夫だったけど……リムジンにしておいた方が良かったかもしれねぇな」  斎がチラッと夏樹を見ながら苦笑した。  今回はリムジンではなく斎の車で病院からここまで来た。  リムジンでも良かったのだが、病院にリムジンは目立ちすぎて余計な人目を惹いてしまう。  なるべく雪夜の視界に人を近づけたくなかったので、あえて普通の車を選んだのだが――…… ***

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