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夜明けの星 6.5-3(夏樹)

――ってな感じで……」 「おやまぁ……ほら、やっぱりリムジンにしておいた方が良かったんじゃないか。詩織に連絡しておくからここから別荘へはリムジンで行きな」 「そうした方が良さそうですね」  夏樹と斎から話を聞いた愛華が、若頭の神川(かんがわ)に目配せをした。  神川は軽く頷くと静かに廊下に出た。  詩織に連絡を入れてくれているのだろう。 「それで?今後はどうするんだい?」 「まぁ、しばらくはまた別荘で様子見ですね。別荘は山の中なので気軽に外に出られないっていうのが難点ですが、雪夜の場合はどこにいても何らかのトラウマがあるので……」 「そうだねぇ……」 「まぁ、雪夜が少し落ち着いてきたら、どこか近くの公園とか、あまり人がいない場所で運動できそうなところに連れて行ってみようかなと思ってます」 「あぁ、あの近くならたしか……」  夏樹たちが話していると、雪夜がようやくちょっとモゾモゾと動き始めた。 「ん?雪夜、大丈夫?ジュース飲む?」 「ジュース!」 「はい、ちゃんと持ってね」  雪夜にオレンジジュースの入ったグラスを渡すと、すごい勢いで飲み始めた。  ちぅ~~~~っ!!と、ストローで一気に吸い込んでいく。 「こらこら、ゆっくり飲みなさい!勢いよく飲むと(むせ)るよ?」 「ん~!」 「飲みながら文句言わない!」  夏樹は笑いながら雪夜の顔にかかった髪を指で払いのけた。  一応冷房はついているが、雪夜はずっと夏樹にしがみついていたので汗ばんでいた。  だから、相当喉が渇いていたのだろう。  ジュースはあっという間になくなってしまった。   「……なつきさ~ん……ない……」  雪夜が空っぽのグラスを軽く左右に振った。 「そうだね」 「ジュース、ないよ?」 「飲んだらなくなるよ?」 「……なつきさんのんだ?」 「いやいやいや、雪夜が今飲んだよね?すごい勢いで飲んでたでしょ?」 「……?」  こらこら、え?飲んでませんけど?みたいな顔しない!! 「雪夜~?おかわり欲しかったらちゃんと言ってください」 「おかわ~り~!くださ~い!」  はっきりと発音しようとしてなぜかエセ外国人のようなイントネーションになった。  雪夜本人は至って真面目に言っているので、夏樹は何とか耐えたが、隣にいた斎と裕也は堪えきれずに吹き出して腹を抱えて笑い転げた。 「ぶはっ!はははっ!」 「……?」  笑い転げる二人に首を傾げる雪夜を見て、夏樹も思わず吹き出した。 「ふ、はははっ!はい、よく言えました~!」 「あ、はいはい!僕、ジュース貰ってくるよ~!」 「え?あ、すみません」  まだちょっと笑いつつも裕也がジュースを貰いに行ってくれた。  別に、廊下に控えている神川に言えばいいのだが、おそらく裕也は調理場に行って何かつまみ食いをするつもりなのだろう。 「雪坊、ジュース美味しかったかい?」 「!?」  愛華に話しかけられて、雪夜が我に返ったように少し焦った顔で夏樹に抱きついた。  ジュースに夢中で、ここがどこなのか忘れていたようだ。 「大丈夫、愛ちゃんは怖くないよ」 「あい……ちゃん?」 「そそ、愛ちゃんだよ。ほら、あのおば……お姉さんが愛ちゃんだよ~」  雪夜を抱っこしたまま、少し身体の向きを変えて愛華たちが見えるようにしてやる。  愛華と瀬蔵がニコニコしながら雪夜に手を振っていた。  雪夜も戸惑いつつ小さく手を振り返す。  うん、まぁ……鬼には見えてないみたいだな。  おかしいな~、俺には常に愛ちゃんの頭には角が5本くらい見えるし、背後にはゴリラが見えるんだけどな~…… 「凜坊?何考えてんだい?」 「んん゛!?いや、別に何も!?まぁ……雪夜がこういう反応してるってことは、とりあえず二人のことも鬼には見えてないみたいで良かったな~って」 「そうかい?他にも何か考えてそうな顔してたけど……まぁいいか。そうだねぇ、雪坊も怯えてる様子はなさそうだね」  愛華は訝しげに夏樹を見ながらも、少しホッとしたように雪夜に笑いかけた。 「なぁ、雪ちゃん?(おれ)っちも大丈夫かい?」  瀬蔵が雪夜を怖がらせないように精一杯の猫なで声を出した。    ただただ気持ち悪い。 「瀬蔵のおっさん、それ逆に怖いから止めろ!」 「何だよ、おめぇが言ったんだろうがよ~?俺の顔が怖いって……」  だからって、声色を変えればいいってもんじゃない。  雪夜もどう反応すればいいのかわからず、夏樹の顔と瀬蔵の顔を(せわ)しなく交互に見ていた。 「雪夜、瀬蔵のおっさんはひとまず無視していいよ~。無害だからね。顔は怖いけど、雪夜には何もしないから大丈夫だよ~」 「……あい!」 「ちょ、おまっ!?おいいいい!?」 「しっ!大きい声は出さないように!雪夜がビックリするでしょ!?」  瀬蔵が大きい声を出しかけたので、すかさず注意をする。 「おっと!……っ」  慌てて口を押さえた瀬蔵は、ジェスチャーで愛ちゃんに、あいつどうにかして!と文句を言って、愛華に鼻で笑われていた。 ***

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