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夜明けの星 6.5-6(夏樹) 

「そんじゃ、雪ちゃんの退院を祝って、カンパーイ!」 「カンパーイ!」  隆の本格懐石料理を前に、斎の音頭でみんながグラスを持ち上げた。 「え……?これって、退院祝いだったんですか?」  今初めて知りましたけど!? 「他に何があんだよ?」 「いや……」  なるほど……そういうことか……!!  だから勢ぞろいね……って、ちょっと待て!! 「俺は!?むしろ俺の退院祝いじゃないんですか!?」  今回の場合は、夏樹が入院しなきゃいけなかったから雪夜も一緒に検査入院という形を取っただけで、雪夜はある意味だ。   「凜坊には退院祝いに私の特訓コースにご招待してあげようねぇ」  愛華がにっこりと笑いながら不吉な言葉を口にした。 「全力でお断りします!!」 「あれくらいで事故ってケガするような軟弱者を雪坊の傍に置いておくわけには行かないよ!?」 「いや、俺もあれは確かにダサいと思うけど……」 「ダサいとか言う問題じゃないだろう!?日頃から鍛えてないから咄嗟に動けないんだよ!まったく……入院で身体も鈍ってるだろうし、一週間くらいうちで鍛え直してやろうじゃないか」 「待って!?ホントに無理だから!!ほら、俺がいないと雪夜が……」 「雪坊、凜坊と一緒にしばらくうちで泊まっていくかい?凜坊が使ってた部屋が離れにあるから、そこで凜坊と一緒に寝ればいいよ」 「あい!」 「雪夜あああああ!?」  ちょっとおおおおおおおお!?  なに愛ちゃんに丸めこまれてるのおおおおおお!? 「いやいやいや、それはホントに無理だって!!以前ならまだしも現在(いま)の雪夜じゃ……」 「ナツ……諦めろ」  隣に座っていた斎が、悪あがきをする夏樹の肩をポンと叩いてきた。 「斎さん!?ちょっと、斎さんからも言って下さいよ!雪夜はここじゃ……」 「うん、雪ちゃんはお前が一緒ならたぶん大丈夫だろ」 「はい?」  斎さん!? 「俺らもこれまで何だかんだ理由をつけてお前を庇ってきたけど、さすがにもう無理だ」 「へ?」  庇ってきた?  愛ちゃんの特訓話はだいぶ前から出てたってこと?  そういや、ちょこちょこ言われてた気はするけど…… 「この一、二年の間にお前いろいろとやらかし過ぎたからなぁ。入院だって何回したか……」  入院って……俺自身が入院したのは客船から飛び込んだのと今回の二回だけだと思うんだけど……? 「二回?二回だろう!?海に飛び込んだくらいで倒れたり、足場の下敷きになったり……あ~情けない!!」 「いや、ちょっと待って愛ちゃん、普通の海じゃないよ!?冬の海だし!夜だったし!雪……俺だけじゃなかったし!!」  一瞬、雪夜の名前を言いかけて、記憶がフラッシュバックしてはいけないと思い慌てて言い直した。  それはともかく、真冬の夜の海に飛び込んで溺れてる人を助けるのがどれだけ大変か……足場だって、余裕だったし……!! 「凜坊?自分一人だったら……じゃダメだろう?あんたは雪坊を守るんだろう?」 「ぅ゛……そうだけど……」 「まぁね、あんたにしては頑張ってると思うよ?今まで他人を守ろうなんて思ったことなかっただろう?」  愛華が軽くため息を吐いて、微笑んだ。  確かに、雪夜に出会う前は、他人を守るという意識はなかった。  浩二につれていかれたパーティーでマダムのBG(ボディガード)もどきなことはしていたが、それは正式に雇われていたわけではなかったので、自分がケガをしない程度に守っていただけだ。  身体を張ってまで助ける義理はないので、マダムを弾道から逸らすために軽く蹴り倒したり、引っ張ったり……今考えるとかなり雑な守り方しかしていなかった。   「誰かを守るためにはね、もう一歩先を見据えて行動しなきゃいけないんだよ。もうあんたも十分思い知ったとは思うけどね」 「そうですね……」  愛華の言いたいことはだいたいわかる。  自分が助かる道を考えて行動に移すことは簡単に出来る。(もちろん、それなりの訓練が必要だが……)  でも、ひとりでの逃げ道確保と誰かを助けながらの逃げ道確保は全然違う。  今までは、たまたまひとりでの逃げ道に余裕があったから他人も助けることが出来ていただけで、客船での雪夜の落下を防げなかったことにしても、足場の落下事故で店員を助けて自分が逃げ遅れたことにしても、自分に余裕がなかったのが敗因だった。  ということを言っているのだろう。  そうは言うけどさあああああ!?こっちも必死だったんだっつーの!! 「とにかく、明日は朝から稽古するよ。雪坊がどうしてもここじゃ落ち着かないようだったら仕方ないけど、大丈夫そうならとりあえず一週間。いいね?」 「……はぃ……」 「声が小さい!!」 「はいっ!!」  あ~……くそっ!やられた!!  やっぱり兄さん連中は愛ちゃんに言いくるめられてたんだな。  ここで退院祝いをするってだけじゃなくて、ここまで込みで……   「とほほ……」  夏樹は生まれて初めて『とほほ……』の使い道を知った。    なるほど、こういう感情の時に使うんだな!!  って、心底どうでもいいわっ!! 「なつきさん、よしよし」  愛華と兄さん連中にまんまと()められてガックリと項垂れる夏樹の頭を、雪夜がよしよしと撫でてくれた。 「雪夜~~」  雪夜に抱きついて、そっと息を吐く。  あ~もぅ……早く二人っきりになりたい~~……!! ***

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