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夜明けの星 6.5-7(夏樹)

 食事が済んで酒が入り始めると愛華(あいか)のお小言が増えるので、夏樹はそっと兄さん連中の方に逃げた。  こっちはこっちで絡まれるので面倒なのだが、まだマシだ。  雪夜は愛華の膝に座って、瀬蔵(らいぞう)と愛華からいろいろと話しかけられていた。  瀬蔵には雪夜に酒を飲ませた前科があるので少し心配だったが、さすがに同じ失態はもう繰り返さないはずだ。 「あ、そうだ。ナツ、とりあえず病院で使ってた着替えとか必要最低限の日用品は、そのままお前の部屋に運ばせてあるぞ」  病院帰りにここに寄ったので、入院セットはほとんど斎の車に乗っていた。 「え?あぁ、ありがとうございます」  バーボンでヤケ酒をしていた夏樹に、斎がさりげなくシャンパンの瓶を渡して来た。   「ん?……斎さん、何ですかこれ?」 「開けろ」 「自分で開ければいいのに……」  仕方がないので、普通にタオルを被せて開け……ようとした瞬間、なぜか斎がタオルをずらして軽く夏樹の手の向きを調節してきた。 「おい、浩二!」  斎が浩二に呼びかける。  その直後、ポンッ!といい音がしてシャンパンが勢いよく噴き出した。 「ぅわっ!」 「(いて)っ!!」 「あ~っと!そういや、これさっき浩二が落としたから開ける時には気を付けろよ(棒読み)」 「先に言って下さいよ!!」    だから俺に開けさせたのか!!  あ~もう、畳がびしょびしょ……っていうか、雪夜、今の音大丈夫だったのか!?  夏樹が雪夜を見ると、こちらの動きを察した愛華が雪夜の耳を塞いでくれていた。    愛ちゃんナイス!!   「おいイッキ!何でこっちに飛ばしてくるんだよ!?」 「お前が落としたんだから、自分で蓋くらい受け止めろ」 「せめて合図くらい送れや!もうちょっとで顔面に当たるとこだったじゃねぇか!」  シャンパンの蓋は、俺の斜め前に座っていた浩二が手で受け止めていた。 「何言ってんだ。ちゃんと合図してやっただろ?俺優しいから」 「優しいやつは人に向かってシャンパンの蓋を飛ばしたりしねぇよ!あ~もう!服がびしょびしょじゃねぇか!」 「どうせお前のことだから着替え持ってるだろ?――」  ブツブツ文句を言いながらも浩二は一旦着替えのために席を立った。 「で、ゲームはどうする?」 「あ~……どうしましょうかねぇ……」  びしょびしょになった畳を若い衆が拭いている間に、斎が何事もなかったかのように先ほどの話しの続きを始めた。  ゲームとは、兄さん連中が病室にこぞって持って来ていたボードゲームのことだ。 「俺が愛ちゃんに絞られてる間、雪夜は何をして過ごすんでしょうかね?リハビリとかもあるのに……」 「リハビリはもう毎日じゃねぇから、リハビリのある日には俺らが(がく)ちゃんを連れて来てやるよ」  はいはい、もうそこらの話しも兄さん連中と愛ちゃんたちの間で出来てるってことですね。  ということは…… 「もしかして、ここで過ごす間も兄さんたちが誰かは雪夜の傍にいてくれたりします?」 「当たり前だろ。若い衆には雪ちゃんを任せられねぇからな」 「じゃあ、兄さんたちがやりたいゲームをいくつか置いていって下さい」 「わかった、とりあえず全部おろしておくわ」 「全部!?」 「だって、一週間だし?ここには対戦相手がいっぱいいるから、いろいろあった方が面白いだろ?」 「組の若い衆を暇つぶしにつきあわせようとしないでくださいよ……」 「じゃあ、神川(かんがわ)にしとくか」  わぁ~い……組の若頭を暇つぶしに付き合わせようとする一般人って一体……  夏樹が呆れまじりの半笑いで斎を見ていると、急に背中が重くなった。 「おっと……ん?なに?雪夜どうしたの?」 「ん~~……」  いつの間にか雪夜がこちらに移動してきていて、背中にぺったりとへばりついてきた。 「眠い?もう寝る?」 「ん゛~~~」  雪夜が夏樹の背中に顔をグリグリと押し付けてくる。 「雪夜、膝においで」 「んむ゛~~~」  あ~、これもう寝そうだな。  眠たいのに寝ないように頑張っている時の状態だ。  つまり、非常に機嫌が悪い。 「雪夜、寝るんだったら、歯磨きして寝なきゃ!お菓子もいっぱい食べてたでしょ!」 「ぶぅ~~~!」 「こらこら、ブーイングしない!すみません、雪夜がもう眠そうだから部屋戻ります」 「あいよ、雪ちゃんおやすみ~!」 「おやすみ~!いい夢見ろよ~!」  みんなへの挨拶もそこそこに、雪夜を抱っこして急いで部屋に戻る。  なんせ、大広間から夏樹の部屋のある離れまでは、この家の敷地の端から端に行くようなものなので、結構距離がある。   「雪夜~、もうちょっと頑張って起きてて~」 「……んむ……」  ははは、ダメだこりゃ……     ***

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