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夜明けの星 6.5-14(夏樹)

 翌朝。  夏樹はベッドの上で固まっていた。 「なんだって?」 「だから、雪夜が離れないんだってば!!」  夏樹はまだ夜が明けきっていない時間にモーニングコールをしてきた愛華に、小声で訴えた。 「まだ寝てるんじゃないのかい?」 「寝てることは寝てるけど……動けない」 「はあ!?」  昨夜は、寝ている間にまた夏樹に置いて行かれると思ったのか、雪夜がなかなか眠ってくれなかった。  眠たい!とぐずり、でも置いて行かれるのはもっとイヤだ!とぐずる雪夜を抱っこして、宥めすかして、あやして……ようやく眠ったのは、ほんの1時間程前だ。  つまり、夏樹も1時間しか眠れていない。  まぁ夏樹は別に一日くらい寝なくてもどうってことはないのだが、動けない理由は…… 「ったく、一体なんだってんだ……い……?」  声を抑えつつ様子を見に来た愛華が、夏樹たちを見て目を丸くした。 「シィ~!ようやく寝たんだから、起こさないでよ!?」 「わかってるよ。……おやまぁ、これは見事なホールドだねぇ」  雪夜は、コアラ並みに夏樹にしっかりと抱きついて眠っていた。  眠ってしまえば力が抜けると思ったのだが、なぜか夏樹が腕と足を外そうとすると、余計にぎゅっと抱きついてくる。  起きているのかと思ったが、どうやらちゃんと眠っているらしい。  腕も足もガッチリと夏樹の背中側で絡めてしがみついているので、夏樹は横になれるわけもなく……  この1時間は雪夜を抱っこして座った状態で仮眠していただけだ。 「なんでこんなことになってんだい?」 「え~と、昨日――……」  昨夜の話しをすると、愛華がふんっ!と鼻を鳴らした。 「まんまと斎にやられたね……」 「はい、ちゃんと事前に言ってくれていれば、ここまで酷くはならなかったと思……」 「おバカだねぇ。斎はこうなるように仕掛けたってことだよ」 「……は?」 「昨日あんたに知らせなかったのは、今日雪坊がこうなるように仕掛けるためだろう。フェイク動画なんて何度も同じ手は使えない。まぁ裕也のことだから、いくつか用意はしてあるはずだけどね」  斎さんがこうなるように仕掛けた?何で?    愛華の言っている意味がわからず首を傾げていると、 「だから、こうなればあんたが特訓に出られないだろう?」 「……あぁ……えっ!?モゴッ……」 「静かにおしっ!」  驚いて大きい声が出そうになったところで愛華がすかさず口を塞いできた。   「ごめん、えっと、じゃあ、斎さんは……」 「あんたのためっていうよりは、雪坊のためだろうね」  ですよね~~。  雪夜はフェイク動画のおかげで落ち着いてからは、一日中泣かずに機嫌良く過ごしていたらしいが……昨日一日、雪夜の様子を見ていた斎が、こうした方がいいと判断したということだ。   「仕方ないねぇ……それじゃあ勘弁してやろうかね」 「へ?」  今日の特訓は? 「あの、愛ちゃん!?」  それって、明日は参加しろってこと!?  いや、たしか最初に、雪夜が一人で待てなさそうなら特訓に参加しなくてもいいって言ってたよね!? 「だから、今日一日は傍にいて、雪坊を安心させておあげ。あんたがちゃんとここに戻ってくるってわかれば、雪坊も少しの間なら離れていても大丈夫かもしれないだろう?」 「どうですかねぇ……雪夜は新しい場所に慣れるのに時間がかかりますから……」 「やってみないとわからないじゃないか。さてと、それじゃ私は行くよ。あんたは明日から特訓に出られるように体調を整えておきな!」 「ふぇ~い……」  愛華がフッと苦笑しながら夏樹と雪夜の頭を撫でて部屋を出て行った。    雪夜を一日で白季組(ここ)に慣れさせるのは無理だろ……  夏樹が大きなため息を吐くと、雪夜がもぞもぞと動いて唸った。 「ん~~~……」 「あ、大丈夫だよ。ちゃんと傍にいるからね。大丈夫……だから眠っていいよ……」    せっかく斎さんが気を利かせてくれたのに、結局愛ちゃんには通用しなかったな~……  いや、今日一日だけでも特訓が休みになったのだから、ある意味成功かも……?  まぁ、雪夜がすぐに慣れるかどうかは置いておいて、ひとまず寝よう。  雪夜をあやしつつ、夏樹もまた目を閉じた。 ***

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