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夜明けの星 6.5-15(夏樹)
「ゆ~きや!おはよ!朝ごはん食べる?」
「……あい」
「お~い、大丈夫?」
「……あぃ……」
「もうちょっと寝る?」
「……んむぅ……ねましぇん……」
「いや、ほぼ寝てるけど」
朝の8時。
そろそろ朝ごはんを食べさせようかと思ったのだが、雪夜はまだグズグズだった。
雪夜が寝たのが4時頃なので、一応4時間くらいは眠ったことになるのだが、やはりずっとしがみついていたのであまり熟睡は出来ていないのだろう。
「とりあえず薬だけ飲んでおこうか。ね?そしたらまた寝ていいから」
「ん゛~~~……ねむにゃい!」
本人は必死に起きようとしているらしく、夏樹の肩に顔を擦りつけてきた。
「ん?眠くないの?……はい、あ~ん」
ぐずる雪夜に薬を飲ませてから、またあやす。
「寝てもいいんだよ。俺も一緒に寝るから寝よう?今日は雪夜をおいて勝手にリハビリに行ったりしないから。ね?」
「らって……なちゅしゃ……いにゃぃ……なりゅ……」
あ~もう、完全に俺の信用ガタ落ち。
雪夜は酔っ払いのようにフラフラしながらも眠気に抗って目を開こうと頑張っていた。
ブハッ!あ~らら、可愛い顔が台無し!……あ、笑ってないよ?そんな顔も可愛いな~と思っただけだから!!
「とりあえずゴロンしよっか」
「ぃやんよ!!ねんねないっ!!」
「わかったわかった。ねんねしなくていいから。横になるだけ。ね?夏樹さんが横になりたいから、お願い!」
雪夜の場合、夏樹のためと言う方が聞いてくれる。
まぁ、実際、全然横になれていないので、夏樹も横になって身体を休めたいというのは本音だった。
「めっ!トントン、めっ!」
「トントンしちゃダメ?はいはい、トントンしません!」
トントンしていた手を雪夜にペチンと叩かれたので、トントンせずに軽く触れるだけにした。
完全に手を離してしまうとそれはそれで怒られてしまうのだ。
とはいえ、何もせずに触れているだけというのは夏樹にとっては結構キツイのだが……まぁ、それは自分のせいなので仕方がない。
夏樹が雪夜を抱きしめてじっとしていると、寝惚け眼の雪夜が顔を上げた。
「……トントンは~?」
「え、していいの?さっきダメって言ってたのに?ねんねしないんでしょ?」
「ねんねない!トントン、めっ!」
寝ぼけていた雪夜がハッとして慌てて頭を振った。
あ~……
今のって、そのままトントンしてれば寝てたかも?
夏樹が心の中で舌打ちをしてうなじを掻いていると、目を擦りながら雪夜が唸った。
「……ぅ~~~……いいこは?」
「ん?いい子?こっち?」
「ん!」
雪夜の言葉に一瞬戸惑いつつ頭を撫でると、雪夜が満足したように笑って目を閉じた。
あ……結局寝るんだ?
“トントン”で寝るのは嫌だけど、“よしよし”で寝るのはいいんだ?
雪夜の基準がよくわからないが、まぁ、ぐずる雪夜は可愛いし、眠ってくれるならなんでもいい。
「よしよし、いい子だね。おやすみ……」
ふっと苦笑して雪夜の頭に口付けた。
***
それから約1時間。
雪夜と一緒に横になっていた夏樹は、地味に耐えていた。
愛華の特訓による全身の筋肉痛。
以前は筋肉痛が多少あっても翌日はそれ以上に動くので、あまり気にならなかった。
というか、特訓がハードすぎて気にしている余裕がない。
だが、今日はじっと横になっているだけだ。
筋肉痛って……痛いんだな~……
当たり前のことになぜか感動していた。
筋肉痛の時は動く方がいいって言うのはホントだな……
何もせずにいるとたまに動いた時にビキッてなる。
せめて柔軟体操だけでもしたいんだけど……
横にはなれたものの、やっぱり雪夜は夏樹にしがみついているので、下手に動けない。
そぉ~っと……
起こさないように静かに腕を外していく。
朝はずっと夏樹にしがみついていたので、さすがにもう疲れたらしい。
今回は意外とスッと外れた。
「ぅ゛~~~……?」
「はいはい、ここにいるよ。傍にいるからね」
目を閉じたまま雪夜の手が夏樹を探していたので、夏樹の代わりにひとまず枕を抱えさせて起き上がった。
う゛~~~~んっ……
思わず声が出そうになるのを我慢して大きく伸びをする。
ぅあ゛~~~……体中がバキバキ言っている気がする。
床に下りて入念に柔軟をして軽く筋トレをしていると、不意に鼻をすする音がした。
あ……っと、そうか。雪夜の位置からだと……
雪夜は壁側を向いて寝ていた。
目を覚まして夏樹がいないので、置いて行かれたと思ったのかもしれない。
こっち向きに寝かせておけば良かったな……
「ゆ~きや!起きたの?」
夏樹はベッドに腰かけて、背後から雪夜に覆い被さるようにして顔を覗き込んだ。
「どした?夏樹さんこっちにいるよ~?顔見せて?」
枕に顔を埋めていた雪夜が、濡れた瞳で夏樹を見上げた。
「……なちゅ……っしゃん?」
「なぁに?ほら、おいで!」
雪夜を膝に抱き上げる。
「おはよ。喉渇いてない?お腹は?もうそろそろお昼だし、何か食べようか」
「おみ……っじゅ……」
「水飲む?はい、どうぞ」
雪夜がしゃくり上げながら水をチビチビと飲んだ。
「ちょっとは眠れた?」
夏樹が雪夜の涙を指で拭いながら聞くと、雪夜は眉間に皺を寄せて口唇を尖らせた。
眠いけど眠いとは言いたくない感じだな。
たぶん今日は一日こんな調子だろうから、とりあえず、この部屋で過ごすか。
慣れない場所に来た時は、あまり範囲を広げずに安心できる空間を確保してやる方がいい。
一日のほとんどを寝て過ごしている雪夜にとって、それは基本的にベッド周りだ。
雪夜にとって夏樹 の部屋が安心して過ごせる場所になれば、夏樹がリハビリに行っている間も、少しは落ち着いて待てるかもしれない。
ところで……今日の雪夜くんは何歳なのかな~?
眠くてぐずっているときは基本的に2~3歳の状態だけど、ちゃんと目が覚めると急にハキハキ話し始めたりするからな~。
夏樹にしてみれば、何歳だろうと雪夜は雪夜だ。
だから、その日の雪夜が何歳になっていようとそんなに気にならないのだが、斎以外の兄さん連中に預ける時にはその日のおよその年齢がわからないと対応に困ると言われる。
また、工藤たちが後日映像を確認する時にも、映像だけでは何歳くらいなのかわかりにくいから、直接会っている夏樹が見極めて記録しておいてほしいと言われている。
つまり、その日の雪夜が何歳かを考えるのは夏樹にとっての宿題のようなものなのだ。
水を飲み終えた雪夜は、再び夏樹に抱きついて来た。
とりあえず、雪夜が落ち着くまではその状態で待つしかない。
夏樹は雪夜をあやしつつ、母屋の方に短い連絡を入れた。
***
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