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夜明けの星 6.5-16(夏樹)

 雪夜が落ち着いて来た頃、母屋から食材と、必要な調味料や調理器具が届いた。  先ほど夏樹が頼んでおいたものだ。 「さぁ~て……雪夜、夏樹さんお料理するからちょっと手伝ってくれる?」 「ぃやんよ!」  夏樹が膝からおろそうとすると、雪夜は慌ててギュッと抱きついてきて頭を振った。 「え~、お手伝いヤダ?」 「やぁだ!」  お手伝いがイヤというよりは、膝から下りるのがイヤと言う感じだな。  簡単なものなら雪夜を抱っこしたまま料理することも出来るが、今から作るのはちょっと片手はキツイ。 「夏樹さんの作ったごはん食べたくない?ほら、病院で約束してたでしょ?退院したら作ってあげるって……」 「ぅ゛~~~~……たべ~~~……る!」 「だよね~!じゃあ……ぱぱっと作るから隣で見てて?」 「……ぁぃ」  雪夜が渋々膝からおりて、しょんぼりとベッドの上で膝を抱えた。  夏樹から離れたくはないが、夏樹の作ったごはんは食べたい。  ジレンマの末、どうやら食い気が勝ったらしい。  それはそれで複雑っ!! 「ほら、おいで。そこからだと見えないでしょ?近くで見てていいんだよ」  夏樹は、雪夜の手をひいて一緒にミニキッチンに連れて行った。  離れにあるミニキッチンは、シンク、一口コンロ、ほんの少しの作業スペース、収納、換気扇などが装備されているフルユニットタイプだ。  基本的に料理は母屋でしていたので、このキッチンは学生時代、夜中に夜食を作って食べる時に使っていただけだ。  おままごとのようなミニキッチンだが、それでもないよりはマシだ。  キッチンの他に、シャワーやトイレも完備して、完全にこの部屋だけで暮らせるようにしてくれたのは、思春期に急にヤクザの家に連れて来られた当時の夏樹への、愛華なりの配慮だと思う。 「まずは材料を切りま~す」  夏樹は手早く人参と玉ねぎをみじん切りにした。  が、隣で見ていただけの雪夜がポロポロと涙を流し始めて、目が痛いと言い始めたので一時中断。  雪夜は玉ねぎのせいだという認識がないので、急に目が痛くなったことで軽く混乱していたが、洗面所で顔を洗って目薬を入れると何とか落ち着いた。  雪夜には玉ねぎの刺激は強すぎたか。  そういや、雪夜は前から玉ねぎを切るの苦手だったな。 「雪夜、目が痛かったら寝ててもいいよ?」 「ぅ~~~……やだ。みる」  目をシパシパさせていた雪夜が、夏樹の背中に顔を擦りつけた。 「そう?まぁ、玉ねぎはもう切ったから大丈夫かな。次はコレだよ。――……あ~……雪夜もやってみる?」 「いいの!?」 「いいよ。じゃあ、一緒にやろうか」  夏樹だけで作った方が早い。  だが、雪夜が興味津々でじ~っと見て来るので、雪夜も一緒に作ることになった。  朝はグズグズだったが、少し落ち着いてからは滑舌もいいし、今日はだいぶ年齢が高そうだから大丈夫だろう。 「包丁しっかり持ってね、そうそう、で、こっちは指切らないように……うん、ゆっくりでいいよ」 「なつきさん、トントントンってしてたよ?」  夏樹が切っていたのを真似しようとしているらしい。 「あ~、あれは何回も練習しないと出来ないね~」 「ゆきや、できない?」 「雪夜も練習すれば出来るようになるよ」 「れんしゅーする!」 「うん、とりあえず今はこれを切っちゃおうね」 「はーい!」  あ、危な……っ!  雪夜が指を切らないかと冷や冷やしながらも、それを態度に出さないようにして見守ることの大変さ……  リハビリのおかげで、だいぶ手首や指先が柔らかくなってきたとはいえ、やはりまだぎこちない。  力加減が難しく、時々動きが錆びたロボットのようにガクンッ!となるので、冗談抜きで怖い。  後ろで見守る夏樹は雪夜が切っている間ずっと一人百面相をしていた。 「できた!」  縦半分に切ったウインナーを8等分?にするのに10分以上かかった。  むしろ、その間ずっと集中していた雪夜はスゴイと思う。 「うん、上手に切れたね!それじゃあ次は、卵だよ」 「たまご~?」 「割ってみようか。どうやって割るか覚えてる?」  たしか今年のバレンタインにカップケーキを作る時に夏樹と一緒に割ったのだが…… 「……こう?」 「お~!?ちょ~~っと待った!!」  “割る”と聞いて少し考えた雪夜が卵を投げる素振りを見せたので、慌てて止める。    うん、確かに割れるけれども!?  っていうか、誰に教わったのそれ!!浩二さんか!? 「えっとね、それだと食べられないでしょ?こうやってちょっとコンコンってして……」 「コンコン!……あ゛……」  雪夜の手の中で卵がぐしゃっと潰れた。 「ぶはっ!……あ、いや、うん……大丈夫だよ。卵はまだあるからね」  思わず吹き出したが、気合で笑いを引っ込めた。  やっぱりそうなるのか~。   「今日は俺と一緒に割ってみようね」 「……ごめんなしゃぃ」  雪夜が気まずそうに俯いた。   「謝らなくていいよ。最初から出来る人なんていないからね。それに……大丈夫。雪夜は出来るようになるよ」  落ち込む雪夜を軽く後ろから包み込んで頬に口付けた。 「ホント?」 「うん、ホント」  だって、俺は雪夜が何回も何回も練習して、ちゃんと卵を割れるようになったのを知ってるからね…… ***

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