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夜明けの星 7-1(夏樹)
「……お、だいぶ色づいてきたな。……この景色、雪夜にも見せてあげたいな~……」
その日3度目の頂上に立った夏樹は、水を飲みつつ、朝日に輝く色鮮やかな木々を見て呟いた。
世界は美しいものに溢れている。
そのことに気付かせてくれたのは、雪夜だ。
雪夜と一緒に見た景色は特別で、また一緒に見たいと思わせてくれる。
だけど、今の雪夜は、そのほとんどを目にすることが出来ない。
満天の星空や、空を埋め尽くす花火、カラフルな花畑や、紅葉に染まる山……
雪夜に見せたい景色はたくさんある。
一緒に行きたい場所はたくさんある。
それなのに、そこにたどり着くまでのリスクが高すぎる。
昔の記憶がフラッシュバックして、パニックになる可能性がないとは言えない。
ただパニックになるだけなら何とかなるが、記憶が混迷している状態では精神面に悪影響が出かねない。
でも……
雪景色や桜吹雪の中ではフラッシュバックするどころか、笑顔や声が出るようになったということを考えると、リスクを恐れていてはダメな気がする。
こういう景色を見た時の感動が雪夜に良い影響を与えてくれるんじゃないだろうか……
夏樹は少しずつ雪夜を外に連れ出すことを考えていた。
一番の難関は山なので、別荘のすぐ外には出せない。
しかし、それ以外のもっと開けた場所なら……
まぁ、それはまた斎さんたちと話し合って決めるか。
俺一人で突っ走って考えるとろくなことにならないからな。
「さてと、そろそろ戻ろうかな」
腕時計を確認して、まだ薄暗い山道を駆け下りた。
***
――夏樹たちが別荘に戻って、そろそろ一ヶ月になる。
退院した時はまだまだ残暑が厳しかったものの、およそ一ヶ月間に及ぶ壮大な寄り道のおかげで別荘に戻る頃にはもう秋の気配が色濃くなっていた。
今の雪夜にしてみれば、別荘 が家のようなものだ。
その証拠に、別荘に戻った雪夜は、今までで一番リラックスしている。
雪夜は夏樹がいなければ、他の兄さん連中の前ではあまり眠らない。
そのため、白季組 にいた時にも、昼間は眠らずにずっと起きていたらしい。
その上、夜も夏樹がいなくなることを心配してしがみついていたため、あまりぐっすりとは眠れていなかった。
その反動か、別荘に戻って来てからは、一日の大半を睡眠に費やしている。
考えてみれば、雪夜は新しい場所に慣れるのに時間がかかるのに、ここ数か月の間に別荘から病院、白季組、そしてまた別荘、と移動しまくりだ。
夏樹が一緒にいたとはいえ、だいぶ精神的に無理をさせてしまっていたのかもしれない。
別荘に戻ってからの夏樹は朝方そっとベッドを抜け出して別荘のある山の中を走る、いわゆるトレイルランニングをしている。
軽い運動は以前からしていたのだが、愛華の冬山訓練を回避するために、以前よりもトレーニングの内容や時間を増やした。
愛ちゃんの特訓に比べれば可愛いものだけど……何もしないよりはマシだからな。
トレイルランニングから戻って来て軽くストレッチをしてシャワーを浴びると、だいたい雪夜に朝の薬を飲ませる時間になる。
雪夜がそのまま起きるかどうかは、その日の体調次第だ。
「おはよ~。雪夜、朝だよ~」
「ん゛~~~……」
「まだ寝る?」
「おふぁ~ましゅ……」
「ふふ、おはよ」
大きく伸びをして、欠伸をしながら挨拶をした雪夜は、そのまま夏樹の肩に頭を乗せてまた目を閉じた。
「お~い、薬飲んでから寝てくださ~い」
「むぅ~~……やぁだ~」
「いやじゃないでしょ~?ジュース夏樹さんが飲んでもいい?」
「ああっ!だぁめでしゅ!」
「はい、あーん」
慌てて頭を起こした雪夜にすかさず薬を飲ませると、ジュースを渡す。
「朝ご飯はどうする?後で食べる?」
夏樹が雪夜の頬にかかる髪を払いながら聞くと、雪夜はくすぐったそうに首を傾げた。
だいぶ髪が伸びて来たな~……また晃 さんに切ってもらうか。
「ん~……」
「ちなみに、夏樹さんは今から作って食べます」
「ぁ……ゆきやも~。いっしょ、が、いい~……」
雪夜が目を擦りつつ手を挙げた。
余程眠たくてぐずっている時は別だが、大抵は眠たくても、夏樹と一緒に朝ご飯を食べたいと言ってくれる。
この後、朝ご飯を作って呼びに来ると、98%の確率で雪夜は爆睡しているので、結局は別々に食べることになるのだけれども……まぁ、気持ちだけでも……嬉しいよ!!
「よし、じゃあ、雪夜の分も作るね!出来るまで寝てていいよ」
夏樹は苦笑しながら、すでにウトウトしている雪夜の頭をポンポンと撫でてベッドから出た。
***
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