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夜明けの星 7-2(夏樹)
「雪夜、今日はどっちでリハビリする?」
「ん~と、おべんきょ、する」
「二階ね、わかった。用意してくるね。雪夜はゆっくりご飯食べてていいよ」
「は~い!」
夏樹は雪夜の頬についているご飯粒を取ってパクっと口に入れると、自分の食器を片づけて二階に上がった。
夏樹たちが久々に別荘に戻ってくると、また別荘の内装が変わっていた。
夏樹たちの部屋は変わらないが、夏樹たちの部屋の二階にある、大浴場やトレーニングルームのガラスや、母屋に続く通路などのガラスが全て瞬間調光ガラスになっていた。
瞬間調光ガラスとは、電気のON/OFF制御で透明と不透明を瞬時に切り替えられるガラスのことだ。
すりガラスにしてしまうと、兄さん連中が外の景色が見たいと思った時に見られないので、わざわざ瞬間調光ガラスにリフォームしたらしい。
もちろん、リフォームは雪夜のためだ。
雪夜はなんだかんだで病院でもずっとリハビリは頑張っていたので、だいぶ足腰もしっかりしてきて、歩くだけではなく、軽く走ったり、跳ねたりも出来るようになってきている。
本当は外を歩くのが一番いいのだが、別荘の外に出るのはまだ難しい。
だから、学島 とも話し合って、雪夜が二階のトレーニングルームの器材も使って鍛えられるようにと、ガラスを変えてくれたのだ。
しかし、もともとガラスにしていたのは移り行く山の風景を楽しむためだ。
不透明にしてしまうと、ただの白っぽい壁になって味気ない。
兄さん連中は、それでは面白くないからと、プロジェクターを設置して、不透明にしたガラスで映像を観たり、プロジェクションマッピングを楽しめるようにしてくれた。
うん、もう完全に兄さん連中が楽しんでるよね!!
ただ、雪夜が観るのは、乳幼児向けの簡単なアニメか、裕也たちが作った学習用の教材動画だ。
普通の映画やドラマ、流血表現があるようなアニメなどは今の雪夜には絶対に見せられない。
これではあまりプロジェクターの意味がないように思うが、雪夜はここで学習用の動画を観るのがお気に入りだ。
ルームランナーで歩きながら、ひたすら算数の問題を解いてみたり、世界地図や国旗を覚えてみたりと、本人は楽しんでいるらしい。
雪夜がずっと見ているので、夏樹も世界地図や国旗を覚えてしまい、最近では雪夜と二人で国旗カードで遊べるようになってきた。
工藤にこの話をすると、研究所でもいろんな学習の映像を観ていたせいかもしれないと言っていたので、何となく夏樹的にはモヤっとしたが……まぁ、今は強制的に見せているわけではないので、雪夜が楽しんでいるならいいか……と割り切っている。
「お勉強ね~……確か昨日はコレを観たんだっけ。今日はどれにしようかな……」
達也たちが、雪夜は上代家に引き取られた時、大学生レベルの問題が解けるようになっていたと言っていたが、それは本当かもしれない……最近の雪夜の普段の精神年齢は10歳前後だが、もう算数ではなく中学生レベルの数学問題が解けるようになっている。
まぁ、もともと大学生なのだから、解けてもおかしくはないのかもしれないが……
「なぁ~つきさ~ん、まぁ~だぁ~で~す~かぁ~?」
一階から雪夜の声がした。
「あ、はいはい!もうご飯食べたの~?」
夏樹はガラスを不透明に変えて、雪夜を迎えに下りた。
「たべたぁ~!」
「お、全部食べたね!」
「は~い!」
「食器片づけてくれたんだ?ありがとね」
「んふ~!」
夏樹が頭を撫でると、雪夜が得意気に笑った。
物を持って歩くのもだいぶ安定してきて、少しの距離なら落とさずに運べるようになったため、食べ終わった食器は自分でシンクに持って行ってくれる。
雪夜は自分で出来ることが増えてきたので、嬉しいらしい。
雪夜が喜んでいるのを見ると夏樹も嬉しい。
……でも、雪夜が頼ってくれなくなるのはちょっと淋しくもあるけどね……
***
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