469 / 715
夜明けの星 7-3(夏樹)
「それじゃあ、上に行こうか」
階段にも手すりを付けてくれているが、まだ握力が弱いし、階段の上り下りは不安定なので必ず誰かが付き添うようにしている。
最初は両手両膝をついて、赤ちゃんがハイハイをしているような恰好で上っていたが、最近になってようやく立って上り下りが出来るようになった。
夏樹が抱っこをしていけば早いが、「これもリハビリの一環なので、なるべく手を出さないように!」と学島に釘を刺されている。
う~ん、我慢!!
雪夜自身はリハビリという意識はないので、夏樹も敢えてリハビリだとは言っていない。
心の中で「頑張れ~」と応援しながら、落ちそうになった時だけ助けるようにしている。
「ゆっくりでいいからね」
「は~い!よいしょ!……よいしょ!……」
ちなみに、兄さん連中が室内エレベーターも付けてくれているが、それは今のところ使っていない。
その代わり、階段で足を滑らせないように、滑り止めをつけてもらった。
それにしても……この別荘がどんどん雪夜のためにリフォームされていく……
兄さん連中がいろいろとしてくれるのは嬉しいけど、あまりにもここが快適すぎてもう俺たちの家に戻れなくなるんじゃ……
「どすこ~い!!」
「はい、着い……え?」
夏樹は二階に到着してポーズを決める雪夜を二度見した。
今、「どすこい」って言った?
まぁ~た浩二さんだな!?
雪夜が変わった言動をする時は、大抵浩二の影響だ。
まぁ……はしゃいでる雪夜は可愛いけど……
「ついた!」
「んん゛……うん、頑張ったね!それじゃ、始めますか!」
「がくせんせ~は?」
「ん?あぁ、さっき連絡しておいたから、そろそろ来るんじゃないかな」
退院後は、本格的なリハビリは一週間に一回くらいでいいだろうという話になっていたのだが、学島は別荘 が気に入ったらしく、一週間に一回通うのは面倒だからと、また一緒に別荘で暮らしている。
学島は、どうせ一緒にいるんだし……と、毎日のトレーニングにも付き合ってくれるので、結局以前と同じように、ほぼ毎日リハビリをしているのと変わらない。
でも、そのおかげで雪夜のリハビリは順調だ。
「おはよ~ございま~す」
「あ、ほら、来た……って、先生珍しく眠そうですね」
いつも朝から元気いっぱいの学島が、珍しくフラフラでやってきた。
「あはは……裕也さんにもらったゲームをやり始めたら止まらなくて……」
目の下にクマを作った学島が、苦笑いをしながら頭を掻いた。
「まさか……徹夜ですか?」
「いや~、何年かぶりに完徹しましたよ~。さすがにキツイですね」
「あらら……裕也さんのゲームって、この間もらってたやつですか?あれ結構エグいでしょ」
「かなり難しいですね。でも先が気になって、結局クリアするまでやっちゃいました」
学島が言っているのは、裕也自作の謎解き脱出ゲームの事だ。
敵から逃げる時の判定がシビアだったり、最後の方に出て来る謎解きに、実はそれまでクリアしてきた謎をメモしていないとわからないものがあったり、謎解きをして次の場面に進む前にもう一度戻らないと手に入らない物があったり……セーブポイントを間違えると最初からやり直さなければいけないような、まぁいかにもどSな裕也らしい内容のゲームなのだ。
「まぁ、たしかに……やり出したら気になりますよね。お疲れ様です」
学島は、あはは、と笑いながら自分の頬を軽くパンッと叩いて気合いを入れると、雪夜に笑いかけた。
「よ~し、それじゃ始めますか!お待たせ雪夜くん!」
「は~い!」
学島と夏樹が話している間、夏樹の背中にひっついてグリグリとおでこを擦りつけていた雪夜が、元気よく返事をした。
雪夜は、学島のことはもうちゃんと覚えているし、学島がリハビリの先生だということもわかっている。
が、それでも毎回会うと最初はちょっと夏樹の後ろに隠れてしまうのだ。
……人見知りのお年頃なのかな?
***
ともだちにシェアしよう!