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夜明けの星 7-5(夏樹)

「雪夜~!?起きたの?夏樹さんこっちだよ~!どこ行ったの~!?」  部屋に戻った夏樹は雪夜を探した。  だいたい探す場所は決まっているのだが、いると思った場所にいなかったので、ちょっと焦る。 「なちゅしゃ~……?」  呼びかけながら耳を澄ませていると、夏樹を呼ぶ、か細い声が聞こえた。 「雪夜!?」  声のする方に行くと、半泣き状態の雪夜が階段の手前の収納スペースに頭をツッコんでお尻だけ出した状態で固まっていた。  いた!!  っていうか、俺そんなところにいると思われてんのかな……?   「見~つけた!」  頭隠してなんとやら……だな。  苦笑しつつもホッとして駆け寄り雪夜を抱き上げた。 「俺のこと探してたの?ごめんね、あっちで用事してたんだよ。おはよ!今日は早かったね。あんまり眠れなかった?」  雪夜がお昼寝をしている間に兄さん連中と話していたのだが、普段は3時間は寝ているのに今日は2時間程で起きてしまったらしい。  夏樹は雪夜の行動範囲を制限はしていない。  雪夜にはトラウマを刺激する場所がたくさんあるが、精神年齢が不安定なせいか、普段の雪夜は自分のトラウマについてあまり意識していない。  本人がわかっていないのに制限しても、反発心や不信感を持たれてしまうだけだ。  だから、あまり制限はしない方がいい。と斎に言われたのだ。  とは言え、その場所に行った瞬間にフラッシュバックするので、パニックになってしまう。  そのため、周囲にいる夏樹たちが雪夜にとって危険だと思う箇所には一人で近付かせないように気を付けている。    最近では行動範囲が広がって来ているし、二階を利用するようになってきたので、一人で階段を使わないように、裕也に頼んで階段の手前にセンサーをつけた。  雪夜がセンサーの前を通ると、夏樹の携帯に連絡が入り、警告音が鳴るようになっている。  それに気づいたので、慌てて中に入って来たのだ。  裕也につけてもらったので、もちろん、裕也も確認できる。  先ほど裕也が夏樹の名前を叫んだのは、雪夜がセンサーに触れたことを知らせるためだ。  たぶん、別荘にいる間は裕也もすぐに対応できるようにしてくれているのだと思う。 「なちゅしゃ、いないの~……」  雪夜が目を擦りつつ夏樹に抱きついてきた。  だいぶ寝惚けているので、たぶんうなされて目を覚ましたのだろう。  寝起きに夏樹がそばにいなかったので、フラフラと探し回っていたらしい。  雪夜が起きたらわかるように、センサー以外にも何かつけておかないとダメかなぁ…… 「うん、俺がいなかったから探しに行こうとしてたんだ?そかそか。あのね、俺は雪夜を置いて遠くに行ったりしないから……だから、大きな声で呼んでくれたらすぐに飛んでくるからね?それくらいいつも近くにいるからね」  以前は夏樹がいないと大きな声で夏樹を呼んでいたが、歩けるようになってきた今では、自分で探した方が早いと思うのか、あまり大きな声で知らせてくれなくなった。  成長と言えば成長なのかもしれないが……  雪夜が夏樹を呼ぶのは、無意識に夏樹に助けを求めている時だ。  淋しい……怖い……不安な気持ちの時に夏樹を呼ぶ。    雪夜が自分で探しに行って、夏樹を見つけられずにそのまま助けを求めることを諦めてしまうことが怖い……  他人に助けを求めるのが苦手な雪夜が夏樹にまで助けを求めなくなれば、またひとりで内側に溜め込んでしまうかもしれない……    だから、できれば雪夜には、探しに行く前にまずは大きな声で俺を呼んで欲しいんだけどな…… 「ぅ゛~~~……」 「よしよし、ごめんね、一人で怖かったよね。……喉渇いてない?何か飲む?」 「ここ~……」 「ココアね。わかった」 「はいは~い。有能な執事がこちらに雪ちゃん好みの生温(なまぬる)いココアを用意しておきましたよ~」  夏樹が振り向く前に、雪夜の目の前にサッとココアが差し出された。 「おわっ!?ビックリした~。斎さんいつからそこに!?」  振り返ると、すぐ後ろに斎が立っていた。  こんなところで気配消すの止めて下さいよ! 「さっきからずっといるぞ?お前が急に叫んで入っていくから何事かと思ったじゃねぇか」 「でもまぁ、階段上ってなくて良かったな」 「センサーに反応したからね」  浩二と裕也もホッとした顔で夏樹たちを見ていた。 「はい……まだ一人は危ないので……」  階段はある意味……夏樹たちにとってのトラウマでもある。  雪夜が昏睡状態になったのは階段から落ちたせいだ。  あの瞬間、あの場には夏樹の他に、斎と裕也もいた。  顔には出さないが、斎と裕也もいまだに、あの時、雪夜を助けられなかったことを悔やんでいる節がある。  これでもかというくらい雪夜のためにリフォームをしてくれるのも、きっと贖罪の気持ちもあるのだろうと思う。   「ここ~!」 「はい、ゆっくり飲めよ~」  雪夜は斎からもらったココアを一気に飲み干すと、また夏樹に抱きついてウトウトし始めた。   「まだ眠たそうなので、雪夜を寝かしつけてきます」 「ああ、さっきの話しはこっちで考えてみるよ」 「お願いします」  お出かけの内容は、兄さん連中もかなり真面目に考えてくれていたようだし、斎さんもいるから任せても大丈夫だろう。    夏樹は兄さん連中に丸投げをして、雪夜を寝室に連れて行った。 ***

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