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夜明けの星 7-6(夏樹)
「納得いかねぇ~~!!」
別荘に浩二の絶叫が響き渡った。
「浩二さん、うるさいですよ」
夏樹は、雪夜の耳を塞ぎながら顔をしかめた。
「なんで俺が行けねぇんだよ!?」
「まぁ落ち着けって」
斎がひらひらと手を振って浩二を諫めた。
「俺も行きたい!!だって、計画立てたのも、いろいろ手配したのも俺だぞ!?」
「うんうん、よく役立ってくれた。ご苦労!!一緒に行くのはまた今度な!」
「そんな一言で終わらせんなっ!!」
浩二が、ポンと肩を叩いて来た斎の手を振り払う。
「あの、浩二さん!雪夜が怯えてるから声のトーン落として下さい!」
もう何度も聞いているので雪夜もだいぶ慣れて来てはいるはずだが、先ほどから浩二が怒鳴る度に怯えて夏樹にしがみついていた。
「ヘァっ!?あわわ……え~~と……雪ちゃん、ごめんな?雪ちゃんに怒ってるわけじゃねぇからな?浩二さんも一緒に行きたかったな~……って……おい、ナツ!雪ちゃんの耳塞いでたら俺の声聞こえねぇじゃねぇか!」
「だって浩二さんがデカい声出すから……」
「これがデカい声出さずにいられるかっ!!」
「まぁそうですけど……」
浩二さんの気持ちはわからんでもないが、せめて雪夜の前で怒鳴るのは止めてほしい……
夏樹はため息を吐きつつ顔をしかめて天を仰いだ。
***
先日、雪夜とのお出かけについて、兄さん連中に丸投げしてみたところ……
「おい、ナツ!場所決まったぞ~」
わずか数時間後には斎たちが日程と場所を決めて来た。
「え、早っ!!どこになったんですか?」
「動物と触れ合えるところ」
「動物園ですか?」
「いや、この近くにある『わくわくアニマルふれあい牧場』を貸し切った」
「あぁ、そういえばそんなところありましたね。そこを貸し切……はい?」
夏樹は思わず斎の顔を二度見した。
斎が言っている牧場は、別荘から車で2時間程の高原にある、結構大きなふれあい観光牧場だ。
牛の乳しぼり体験や乗馬体験なども出来るので結構人気があって、平日でも観光客が多いはずだが……
「コージが頑張った。ユウがいろいろ調べたら経営者がマダムと知り合いだったから、コージがマダムに頼み込んでマダム経由で話つけてくれた」
「そう!俺が頑張った!」
浩二が腰に手を当てて得意気に胸を張った。
「マジですか……っていうか、貸し切りまでしなくても……」
「だって、牧場は普段結構人多いみたいだからな。今回のお出かけは、ある意味雪ちゃんの初めてのお出かけだぞ?」
斎の言うように、今の雪夜にとっては、別荘と病院、白季組以外の場所に行くのは初めてだ。
「調べた感じではトラウマを刺激するようなものは見あたらねぇけど、行ってみなきゃわかんねぇし、あんまり人が多いとそれだけでパニクって動物と触れ合うどころじゃないかもしれねぇだろ。ただでさえ、牧場にはスタッフがいっぱいいるんだし、まぁ、慣らしならなるべく人が少ない方がいいだろ」
「そうですね……」
まぁ、だからと言って貸し切りにまでしなくてもいいとは思うが……
マダムが絡んでいるとなると、貸し切りになったのも何となくわかる。
で、せっかくの貸し切りだからと、みんな揃って行くことになった。
……のだが……
「みんなが行きたいっつーから、俺がバスも手配したのに!!なんで俺が行けねぇんだよおおおおおお!!」
「仕方ねぇだろ?マダムが口を利いてくれる条件が、パーティーのエスコートだったんだから」
「百歩譲ってそれはいい!マダムのエスコートするのはいつものことだし、慣れてるからいい!でも……なんでお出かけの日と同じ日なんだよおおおおおおお!!!」
「アハハ……そればっかりはなぁ……」
斎も苦笑いをしながら頬をポリポリと掻いた。
昨日の昼にマダムからパーティーの日程が知らされたらしい。
浩二は雪夜とお出かけする気満々で、ちゃんと休みが取れるように仕事も頑張って片付けていた。
それが、まさかのお出かけの日にパーティーがあると知らされたので、今朝から浩二が荒れているのだ。
気の毒ではある。
しかし、文句はマダムに言ってもらわないと、ここで文句を言われても困る。
***
「こんちゃ~っす」
「お、来た来た。久しぶりだな、ヤング、颯太 」
浩二が吼えている間に、続々とみんなが到着していた。
雪夜の初のお出かけだから、やっぱり親友の二人はいた方がいいだろうと言うことで、佐々木と相川にも声をかけていた。
「斎さん、お久しぶりです。雪夜~、元気だったか~?」
佐々木が夏樹にしがみついている雪夜の背中に抱きついて来た。
その背中に相川がひっついてくる。
「雪ちゃあああああん!風邪引いてない?大丈夫?元気ぃ~~!?」
「相川うるせぇ!」
「いや、お前ら二人ともちょっと離れろ。何で俺がお前らまで受け止めなきゃなんねぇんだよ!っつーか、雪夜が潰れる!!」
「え?そりゃまぁ、夏樹さんはクッションだし?」
んん?クッション?
「佐々木、それどこ情報だ?」
「え~と……あ、雪夜こっち見た!佐々木だぞ~!覚えてるか~?」
佐々木がわざとらしく話を逸らして雪夜の顔を覗き込む。
まぁ、その話はたぶん、斎さんだな!?
夏樹が斎を見ると、斎は佐々木たちを乗せて来た晃たちと一緒に、浩二を宥めていた。
なんだか賑やかなお出かけになりそうだ……
***
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