浩二が手配してくれていたバスに、浩二以外のメンツが乗り込んだ。 　半泣きで見送る浩二に笑顔で手を振って、予定通りの時間に出発。 　窓にはカーテンがついているので、雪夜の位置から見えそうな窓だけカーテンを閉めていたが、雪夜は初めて乗るバスと、みんなでのお出かけにテンションが上がって、外の風景など気にならない様子だった。 「バスおっきいね！ひろ～いね！！」 「雪ちゃん、ちゃんと座ってないと危ないぞ～」 「はーい！」 　バスの中では、夏樹は雪夜から少し離れて座っていた。 　ここに乗っているのは、雪夜にとっては夏樹の次に信頼できて甘えられる存在の人たちばかりだ。 　夏樹がいなくても、誰かが雪夜をみてくれているので、危険なことはない。 　というわけで、兄さん連中にたまには譲れ！と言われたので、仕方なく…… 　ぅぅ……兄さんたちズルい……俺も隣に座りたかったな～…… 　一応山道を走るので、雪夜には酔い止め薬を飲ませてある。 　学島に、雪夜は三半規管が弱っているので、酔いやすくなっている可能性があると言われたからだ。 　その学島も一緒にバスに乗っている。 　前の方の席で、裕也と二人でこの間クリアしたゲームについての話しで盛り上がっていた。 　後は、浩二以外の兄さん連中と、佐々木、相川だ。 　実は、裕也からこの話を聞いた工藤も来たがっていたのだが、どうしても外せない用事があったらしく今回は参加できなかった。 　まぁ、今回のお出かけがうまくいけば、また第二弾、第三弾……と兄さん連中が喜んで計画を立ててくれるだろうから、浩二も工藤も参加出来る時にすればいい。 　……って、いやいやちょっと待て！！ 　なんでまたみんなで行くことを前提に考えてんだよ！！ 　毎回毎回こんな大所帯で行くつもりか！？ 　落ち着けよ俺！！遠足かよっ！！ 　ダメだ、もうなんか感覚が麻痺してんな…… ＊＊＊ 「なつさぁ～～ん……」 　夏樹がぼーっと窓の外を眺めていると、雪夜が隣に座ってもたれて来た。 「ん？え、雪夜！？……ぉっと……どうしたの？」 　慌ててカーテンを閉めて、雪夜に声をかける。 　兄さん連中も、雪夜が自分から夏樹のところに行くのは止めない。 　なぜなら…… 「ごめん、夏樹さん。もしかしたら酔ったのかも。さっきちょっとカーブが続いたから」 　雪夜が転ばないように後ろからついて来た佐々木が、通路を挟んで反対側の席に座った。 「あ～……一応薬は飲んでるけど、まだ効いてないのかな。雪夜、おいで」 　抱き上げて背中を擦ると、夏樹の胸元にグリグリと顔を押し付けてきた。 　 「ぅ゛～～～」 「吐きそう？冷たいお茶飲む？」 ――そう、なぜなら……こうやって信頼できる人たちに囲まれているのにも関わらず雪夜が自分から夏樹のところに行く時は、具合が悪いとか、眠たいとか……雪夜にとって“夏樹じゃないとダメな時”だからだ。 　う～ん、さっそく酔っちゃったか～…… 　今日の雪夜はわりと年齢が高い方だとは思うが、そもそも小学生時代は外出の経験自体があまりなかったので車酔いも初めてらしく、どうして気分が悪くなったのかわかっていないらしい。 　先ほどまでの元気はどこへやら……泣きそうな顔で夏樹にしがみついてくる。 　 「よしよし、ちょっとお茶飲んでごらん？」 「ぅ゛～～～」 「雪夜、オエッてなりそうだったらこれお口に当ててね？」 　一応用意しておいたエチケット袋を雪夜に見せた。 　……まぁ実際に吐きそうになったら、そんな余裕ないだろうけどな～…… 「着くまで寝てていいよ。後ろの広い座席で寝て来る？」 「ん～……なつしゃ……がいい……」 　冷たいお茶を飲んで少し落ち着いた様子の雪夜が、ぐったりと夏樹の膝に頭を乗せて目を閉じた。 「雪ちゃん大丈夫か？酔ったか？」 　斎が様子を見に来た。 「ちょっと酔ったみたいですね」 「車停めてもらおうか？」 　車酔いの時は、一旦車から降りて新鮮な空気を吸うのがいいと聞く。 　だが、雪夜は車を停めてもらったところで、車外に出られるわけではない。 「いや……寝てしまえば大丈夫だと思います。昨日興奮してなかなか眠れなかったんで、寝不足のせいでもあると思うし……」 　斎、隆、裕也、浩二は昨夜から別荘に来ていた。 　雪夜は久々に兄さん連中にいっぱい遊んでもらって、興奮してなかなか眠れなかったのだ。 　（浩二は愚痴を言うためだけにわざわざ昨夜から来ていた） 「そんじゃ夏樹さん、雪夜のことよろしく。……斎さん！ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」 　佐々木は雪夜が寝たのを確認すると、斎を追いかけてまた後ろの席に戻って行った。 　寝てる間に酔い止めが効いてくれればいいんだけどな～…… 　せっかくの初めてのお出かけが、車酔いのせいで嫌な思い出になってしまうのは困る。 　お出かけ＝車酔い、なんてイメージがついてしまうと、次のお出かけに支障が…… 　 　前途多難だな…… 　夏樹は雪夜の頭を撫でながら、そっとため息を吐いた。 ＊＊＊