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夜明けの星 7-8(夏樹)
「ここどぉこ?」
バスから降りかけた雪夜は、目の前に広がる見慣れない景色に足を止めた。
「今日みんなで遊ぶところだよ。雪夜の好きな動物がいっぱいいるんだってさ。一緒に行ってみようよ。降りておいで」
先に降りた夏樹が「抱っこする?」と両手を広げると、雪夜は恐る恐る段を降りてきて、最後の一段を降りる前に夏樹に飛びついて来た。
「雪ちゃん、俺らも行くから大丈夫だぞ~」
「へ~、初めてきたけど、結構広そうだな」
相川と佐々木が雪夜の頭や背中をポンポンと撫でてきたが、雪夜は夏樹の肩に顔を埋めたままだった。
「ナツどうする?いけそうか?もうちょっと慣れるまで待つか?」
「う~ん……寝起きだからちょっとびっくりしたみたいですね……まぁ、しばらく抱っこしてれば大丈夫だと思います」
「そうか、それじゃ行くか!あ、俺らは先に行くけど、お前らはゆっくりでいいぞ」
斎は二ッと笑うと、晃 と先に立って歩き出した。
浩二が来ていないので、斎と晃が代わりにここの責任者に挨拶をしに行ってくれるらしい。
颯爽と歩いて行く斎たちの背中を見送りながら、夏樹たちはのんびりと歩き始めた。
夏樹と雪夜の荷物は兄さん連中が持ってくれた。
***
貸し切りなので、園内には夏樹たちしか客はいない。
だが、夏樹たちの周りは賑やかだ。
兄さん連中のモットーは“楽しむ時には全力で楽しむ”なので、みんなで集まると常にお祭り騒ぎになる。
浩二が来ていないので、少しは静かだと思ったのだが……甘かった。
「あ、エサやりできるってよ!行ってみようぜ!」
「わぁい!ひつじぃ~!もこもこだね~!もこもこ触りた~~い!!」
「あ、ちょっと、隆さん、裕也さん!走らないで下さいよ!」
「別にナツはゆっくり行けばいい。あいつらは放っておけ」
ゲートをくぐると、正面にヒツジやヤギがいる大きな広場があった。
それを見るなり裕也と隆 が急に走り出したので夏樹が慌てていると、玲人 がのんびりと声をかけてきた。
「あらら、隆さんまで行っちゃった。裕也さんのテンションについて行けるのは浩二さんだけだと思ってたのに……」
相川が変な所に感心していると、玲人が軽く吹き出した。
「まぁ、ユウは普段からテンション高いからな。颯太 が言うように、あれにずっとついて行けるのはコージくらいだと思うぞ」
「ですよね?」
「でも、イベント事は基本的にみんなテンション高いぞ。まぁ、さすがにもう他人に迷惑をかけるようなことはしなくなったけど、テンションが上がってるあいつらを止めるのは一苦労なんだ」
玲人がちょっと遠くを見ながら呟いた。
兄さん連中の中では一番の常識人だから、いろいろと苦労も絶えないらしい。
「お~?あいつら何やってんだ?」
いつの間にか斎と晃が追いついて来ていた。
「あ、なんかエサやり体験が出来るらしくて……」
「へぇ~いいな。俺らもやってみるか!」
「雪ちゃんもやろうぜ~」
斎と晃もノリノリでエサやり体験を始めた。
一方、佐々木たちは……
「雪夜、ほら、見てみな?ヒツジだぞ?」
「雪ちゃん、見て!メェメェさんだ!あ、あっちにヤギもいる!」
「相川……ヤギもメェ~って鳴くぞ?」
「ええ!?……あ、ホントだ……じゃあ、メェメェさんってどっちなんだ……?」
「いや、一応ヒツジとヤギは微妙に鳴き声違うんだよ」
相川と佐々木の会話に学島が入って来て、何やら三人で鳴き声の話しで盛り上がり始めた。
うん……もうホントみんな自由!!楽しそうで何よりです……!
夏樹は苦笑しつつ、雪夜の背中を軽く叩いた。
「ゆ~きや、ほら、着いたよ?顔あげてごらん?ヒツジさんがすぐ近くに来てるよ」
「ん~ん!!」
慣れない場所が怖いのか、雪夜が顔を上げるのを嫌がって夏樹にしがみつく。
「夏樹さんエサやりするけど、雪夜も一緒にしない?」
「ぃやんよ!!」
「しないの?可愛いよ?ヒツジさん」
柵を挟んですぐ向こうに来ていたヒツジが「メェ~」と鳴いたので、雪夜が少しだけ顔を上げてヒツジを見た。
が……ヒツジを見た瞬間ピョコンと飛び上がって更に夏樹にしがみついた。
「しちゅじ、ぃやん!!あっちいって!!」
「え~!?」
あれ?おかしいなぁ~……雪夜動物好きじゃなかったっけ……
「ナツ、あっちの建物で小動物と触れ合えるみたいだぞ?まずはそっちに行ってみたらどうだ?」
どうしたものかと戸惑っていると、玲人が少し先にある建物を指差した。
「え?あぁ、そうですね……」
「雪ちゃん、動物は好きだけど、実物を見るのはこれが初めてだろ?思ってたよりも大きくてビックリしたのかもしれねぇぞ?」
「あ~……そうか……」
言われてみれば、今の雪夜は本物を見たことはないんだった……
絵本や映像で動物を見るのは好きだけど、実物を見ていないのだから実際の大きさなんてわからない。
そりゃビックリするよな……
わかっているはずなのに、時々今の雪夜にとっては初めてだということを忘れてしまう……
「それじゃあ雪夜、うさぎさんに会いに行こうか!」
夏樹は気を取り直して雪夜に話しかけた。
「うしゃにしゃん?」
「うん、うさぎさん。うさぎさんはこんなに大きくないよ。もっと小さいからね。雪夜でも抱っこできるよ」
「うしゃにしゃん、いく!」
「お?行ってみる?よしよし、行ってみよ~!」
この場を離れたかっただけかもしれないが、雪夜が行く気になってくれたので、ひとまず玲人と三人で小動物と触れ合える場所を目指した。
もう何でもいいからとりあえず一つでも雪夜にとって楽しい思い出を作ってやりたい!!
夏樹は祈るような気持ちで“小動物ふれあい広場”に足を踏み入れた――……
***
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