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夜明けの星 7-12(夏樹)
夏樹の一番が自分だとわかって安心したのか、雪夜はミニブタ以外の動物にも触れられるようになった。
だが、夏樹も一緒に触ろうとするとちょっと頬を膨らませて口唇を尖らせる。
口には出さないが、やはり夏樹が自分以外を愛でるのはイヤだということらしい。
嫉妬してる雪夜も可愛いけど……でも、嫉妬するってことは不安になってるってことだよね?
俺のスキンシップが足りないのかな?
今でも結構してると思うけど……もっとした方がいい?
え、していいならしますけど!?
いや、ダメだ。今以上のスキンシップは俺がキツイ!!いろいろと!!
う~ん……悩ましいな……
夏樹はなるべく他の動物に触れるのを止め、雪夜の撮影係に徹することにした。
しばらくすると、雪夜は玲人 に教えてもらって他の動物も抱っこ出来るようになった。
夏樹にとって、念願のふわふわと天使の組み合わせ。
もう夏樹的には今日の目的がほぼ達成されたようなものだ。
うん、やっぱり雪夜とふわふわの組み合わせは可愛い!最高!!
***
「お~?楽しそうだな~」
「なんで三人だけこっちに来てるの~?」
夏樹たちがなかなか戻ってこなかったせいか、他の兄さん連中もふれあい広場にやってきた。
「へぇ~、動物を抱っこ出来るんだ!?うわ~赤ちゃんだ!ちっちゃ~い!」
「ユウ、待て!お前は外から見るだけにしておけ!」
「なんで~?」
「潰しそうだから」
「ちょっと!!僕を何だと思ってるの!?それくらい加減できるよ~!!」
「ダメだっ!!」
裕也が柵の中に入ろうとするのを、玲人が必死に止める。
身体が大きくて力の強そうな玲人と、だいぶ小柄で童顔な裕也のやり取りに、ふれあい広場のスタッフたちは玲人が冗談を言っているのだろうという顔でニコニコと見ていたが、もちろん、玲人は真剣だ。
なんせ、ふれあい広場にいるのは、小動物。
しかも、ほとんどがまだ赤ちゃんなので……命にかかわる!!
だから、裕也が柵の中に入ろうとすれば、全力で止めなければいけないのだ。
そんな玲人たちを横目に、斎はのんびりと雪夜に話しかけていた。
「雪ちゃんは何抱っこしてんだ?」
「ぴよぴよしゃん!」
「ひよこか~!可愛いなぁ。ふわふわだ~!」
「雪夜~!こっち向いて~!あ、ちょっとすみません、斎さん邪魔です」
「なんだよ、俺とツーショットで撮ればいいだろ?ほら、早く撮れよカメラマン!」
斎が雪夜の隣にしゃがんで、雪夜の肩を抱き寄せた。
ぅおおおい!!斎さん、何やってんの!?
「あ~!ちょっとモデルに勝手に触らないで下さいよ!っていうか、ツーショットで撮るならまずは俺とでしょ!?」
「え?ナツも俺とツーショット撮りたかったのか?」
「違います!俺と雪夜ですよ!何で俺が斎さんと撮らなきゃいけないんですかっ!!」
「よ~し、仕方ねぇなぁ。ナツ撮るぞ~!ほら、こっち向け」
夏樹の声を華麗にスルーして、斎が夏樹の肩を抱き寄せた。
「ちょ!?斎さん!?」
「これ愛ちゃんに送るやつだから、ちゃんと楽しそうにしといた方がいいぞ?」
「げ!?」
「ほ~ら、笑って~?」
「ぁ……はは……」
夏樹は若干引きつった笑顔で斎とツーショットを撮った。
そばにいたスタッフからは何とも言えない押し殺した黄色い悲鳴が上がっていたが……
愛ちゃんに送るって、この写真を!?
なんで!?
「って、そうじゃなくて!雪夜と一緒に撮ってください!」
「はいはい、ほ~ら、雪ちゃん……あれ?どこいった?」
夏樹が斎とじゃれている間に、雪夜はひよこに埋もれていた。
「雪夜、斎さんが一緒に写真撮ってくれるって!おいで~!」
「あい!ぁ……ぴよぴよしゃんいっぱい……」
雪夜は、立ち上がったものの足元がひよこだらけで足を踏み出せず、おろおろしながら夏樹の顔を見てきた。
だいぶ安定して歩けるようになってきたとは言え、障害物を、しかもちょこまかと動く障害物を避けながら歩いてくるのは、雪夜にはまだ難しい。
「あぁ、ごめん。いいよ、俺がそっちに行く。雪夜はじっとしてて」
夏樹はひよこを踏まないようにかき分けながら雪夜の傍らに向かった。
***
数分後。
「――おお、俺スゴイな」
「何がですか?」
「これ見てみろって」
斎に撮った写真を見せてもらうと、大量のひよこがハート型に集められて、その黄色いハートの真ん中に夏樹と雪夜が埋もれていた。
斎さんが写真を撮る前にやたらとひよこを集めていたけど、そんなことしてたのか……
「すごいですね」
夏樹はともかく、ふわふわに埋もれる雪夜は可愛い。
「だろ?いや~、さすが俺だな。菜穂子に送ってやろう」
「なお姉、こういうの好きそうですよね。さてと、雪夜!脱出するよ~!」
斎が嬉しそうに写真を送信しているのを見ながら、夏樹は雪夜を抱き上げてひよこのサークルから出た。
大量のひよこはフワフワで可愛いけれども、踏んでしまいそうで怖い。
「雪夜、ちょっとお茶でも飲もうか。いっぱい遊んだから喉渇いてるでしょ?」
「あい!」
はしゃぎまくっている兄さん連中を置いて、夏樹は雪夜を連れてふれあい広場の出口に向かった。
***
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