479 / 715
夜明けの星 7-13(夏樹)
夏樹たちは、ふれあい広場のすぐ外にあるベンチに腰かけた。
「雪夜、どう?楽しい?」
「あい!」
「そか、良かった」
「あのね、ぶぅしゃんとね、ぴよぴよしゃんとね、まるっこいのとね、えっとね……いっぱいかわい~ね~!」
ちょっと興奮気味の雪夜が、お茶を飲みながら指を折りつつ抱っこした動物を思い出してニコっと笑った。
「のめた!」
「ん。おいで、ちょっとぎゅ~させて?」
雪夜から受け取ったペットボトルの蓋をきつく閉め直して、雪夜を膝に抱き上げる。
ぎゅ~っと抱きしめつつ頬をくっつけると、雪夜がくすぐったそうにくすくすと笑った。
ん~……やっぱりちょっと熱いな。
「雪夜、具合悪くない?気持ち悪いとか、頭痛いとか……」
「ぅ~~~ん……ないっ!」
ちょっと唸りながら首を傾げた雪夜がぶんぶんと頭を横に振った。
「……そか、わかった。お昼ご飯までまだちょっと時間あるから、兄さんたちが出て来るまで休憩しようか」
「あ~い」
夏樹が雪夜の背中をぽんぽんと撫でると、雪夜は夏樹に抱きついて、ふぅ~っと息を吐き目を閉じた。
***
夏樹はひよこのサークルで写真を撮っていた時に雪夜の身体が少し熱くなっていることに気がついた。
今の雪夜にしてみれば初めてのお出かけなので、もしかしたら翌日は疲れて熱を出すかもしれない……とは思っていたけれど、予想よりも早く熱が出て来たので夏樹は内心ちょっと焦っていた。
一応熱さましの薬も持って来てはいるが、まだ微熱程度なので飲ませる程じゃない。
それに、今のところはテンションが上がっているので雪夜自身熱が出ている自覚はなさそうだ。
たぶん、帰りのバスの中とかで一気に疲れが出て来る感じかな……
「ナツ、雪ちゃんの具合どうだ?」
この後どうするか考えていると、斎が様子を見に来た。
「斎さん……気づいてたんですか?」
「さっき抱き寄せた時に熱かったからな」
斎さん言い方!!
いや、たしかに抱き寄せてたけど!!
っていうか、もしかして熱を確かめるために雪夜にひっついてたのか?
「まだ微熱ですね。今ちょっとうとうとしてますけど、本人はテンション上がってるせいか熱が出てることには気がついてないみたいで……」
「そうか」
斎が隣に座って雪夜の頬や首筋に軽く触れた。
「そうだな、これくらいならまだ大丈夫そうだな」
「せっかく雪夜も楽しんでるから、このまま予定通り、もう少しここで過ごしてみようかと思うんですけど……」
別荘に帰ってからしばらく寝込んだとしても、入院するほどまではいかないだろうし、雪夜にとって楽しい思い出が出来るならその方がいい。
「まぁ、雪ちゃんの様子を見つつ……って感じだな。無理そうならそこで切り上げればいいし」
「はい」
***
斎と話していると、微かに誰かの怒鳴り声や悲鳴のような声が聞こえた。
「おっと……来たかな……?ナツ、念のためにしばらくの間雪ちゃんにイヤーマフしとけ」
斎が夏樹の鞄から雪夜のイヤーマフを出した。
「え?あ、はい」
「ちょっと仕事片付けて来る」
「いってらっしゃい」
斎が立ち上がって大きく伸びをしたところで、慌てた様子のスタッフが斎を呼びに来た。
「は~い。すぐ行きます。……ついでにユウ連れて行くか。んじゃ行ってくる」
散歩にでも行くような口ぶりで斎がスタッフとどこかに出かけて行った。
仕事……?
まぁ、後で詳しく話を聞けばいいか。
斎たちといるとこういうことは日常茶飯事なので、だいたいの予想はつくが……
「雪夜、今からちょっと大きい音がするかもしれないんだってさ。少しだけこれつけておこうか」
「ん~~……」
「眠たい?ちょっとだけ寝てていいよ。みんなが来たら起こしてあげるからね」
「……ぁぃ」
雪夜はイヤーマフをつけると、また夏樹にもたれかかってすぐに寝息をたて始めた。
「昼飯は斎さん達の仕事が終わった後かな~……」
夏樹は雪夜の背中を軽くトントンしながら、晴れ渡る空を見上げてのんびりと呟いた。
***
ともだちにシェアしよう!