「――さん！おいっ！夏樹さんってば！！起きろ～～っ！！」 　佐々木の声がしたと思った瞬間、頭を叩かれた。 「……ん～？なんだよ？」 　叩かれたところをちょっと掻きながら薄く目を開ける。 「のんきにうたた寝してる場合じゃないって！！」 　空を眺めているうちに、いつの間にやら夏樹もウトウトしていたらしい。 「ふぁ～～～……だからなんだよ？」 　両腕を上げて大きく伸びをしながら佐々木を見る。 　よく見ると、後ろに相川と学島もいた。 　 　そういやこいつら今までどこにいたんだ？ 「なんか、ガラの悪い奴らがいっぱい来てるんだよ！今日って貸し切りだよな？っていうか、どう見ても客って感じじゃないし……」 「あ～……斎さんたちは？」 　やっぱり予感的中って感じかな。 「さっきスタッフと一緒に斎さんたちが来てなんかそいつらに話しかけてたけど……だいぶ険悪な感じで……」 「ふ～ん」 「ふ～ん、じゃねぇよ！あれ大丈夫なのか？警察とか呼んだ方がいい？」 「呼ばなくていいよ。必要ならここのスタッフが呼んでるだろうしな。まぁ、斎さんらがいるから大丈夫だって」 　夏樹は佐々木を宥めつつお茶を一口含んだ。 「でも、あいつら結構な人数いたけど？」 「どれくらい？」 「相川、どれくらいいた？」 　佐々木が振り向いて相川に話を振った。 「え～？あっちこっちに散らばってたからわかんねぇけど、う～ん、15~20人くらいかなぁ？」 「たぶん、それくらいですね」 　ちょっと斜め上を見て考えていた相川が、学島にも確認しながら人数を口にした。 「あぁ、それくらいなら余裕だから大丈夫だよ」 　裕也さん一人でも余裕だとは思うけど…… 「今日は兄さん連中がほぼ勢ぞろいだし。それに斎さんはあいつらが来ることわかってたっぽいしな」 「え、そうなの？」 　佐々木たちが驚いたように顔を見合わせた。 「どうせマダム経由でここを貸し切りにする代わりにあれを片付けてくれ、とでも言われたんじゃねぇの？」 　そうでもなければ、あんな短時間に話がまとまるはずがない。 　佐々木が「ガラの悪い奴ら」と言っていたので、恐らく地上げ屋だろう。 「夏樹さんは？」 「俺？俺は出ないよ。こういうのに俺が出るとややこしくなるからな。他に人がいねぇなら出るけど、兄さん連中がいる時は任せる」 　地上げ屋には暴力団が関わっていることが多い。 　荒事に夏樹が出ると、どうしても白季(しらとき)組にも飛び火してしまう。 　向こうがどう出るかによるが、組同士の問題になるといろいろと面倒なのだ。 「あぁ……なるほど」 「まぁ、お前らも座れよ。終わったら斎さんらが呼びにくるだろ。そしたら昼飯食おうぜ」 「わかった」 　夏樹が落ち着いているので、佐々木たちも肩の力を抜いてベンチに座った。 　 ＊＊＊ 「雪夜、爆睡してんの？疲れたのか？」 「ん～？そうだな。ちょっと微熱も出て来てるから……」 「え、はしゃぎ過ぎた？」 「たぶんな。でも本人はテンション上がってるからあんまり熱が出てる自覚ないし、微熱程度だからこのまま様子見しようと思ってな」 「そか……雪夜、楽しんでる？」 「楽しんでるみたいだぞ？ほら」 「……夏樹さん、写真撮りすぎ……」 　夏樹が撮りまくった写真を見せると、佐々木たちがその量に若干引いていた。 「そう言いながら自分の携帯に写真送ってんの誰だよ」 「え？俺だけど？だって、この雪夜可愛いし！」 　佐々木はシレっと気に入った写真を自分の携帯に送りまくっていた。 　 　まぁ、俺も佐々木たちから雪夜の写真貰ってるから、別にいいけど…… 「あ、ちょっと何この黄色いハート！こんなの撮れるところがあるの！？翠(あきら)、俺にもそれ送って！」 「あぁ、それ撮ったのは斎さん。その黄色いのはひよこだぞ」 　夏樹が言うと、「え、黄色いの全部？」と相川が眉間に皺を寄せて、じっと画面を見つめた。 「ぅわ、ホントだ！！アップにしたらくちばしがある！」 「くちばしの前に目で気づくだろ……」 「スゴイですね～。こんなにキレイにハート型になるものなんですか？」 　学島も一緒に覗き込んで感嘆の声をあげる。 「どうやったのかは斎さんに聞け。でも俺が見る限りじゃ特別なことはしてなくて、普通にひよこを集めて来ただけみたいに見えたけどな」 「なにそれ、斎マジック？」 「はははっ、そうかもな」 　遠くで怒鳴り声や何かが壊れる音がしている中、夏樹の周りは雪夜を起こさないように気を使いつつも楽しそうな笑い声が溢れていた。 　 　いや～平和だな～…… ＊＊＊