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夜明けの星 7-17(夏樹)

 ふれあい広場に戻ると、雪夜はもう起きていて、佐々木の隣に座っていた。 「ただいま~。雪夜起きたの?熱は大丈夫?」 「なちゅしゃ~ん!」  夏樹が雪夜の頬や首に触れると、雪夜が嬉しそうに夏樹に抱きついて来た。    頬が紅潮してるように見えたけど、熱は上がってなさそうだな。  テンションが上がってるからそのせいかな? 「おはよ~雪夜!お菓子食べてたの?もうお昼だからお腹空いたよね」 「なちゅしゃ、あ~ん!」  雪夜の前にしゃがむと、雪夜がお菓子を口に放り込んでくれた。   「いつ起きたんだ?」 「雪夜なら、夏樹さんが野生に戻って狩りしてる時に起きたぞ」 「そそ、夏樹さんがヒツジを追いかけてる時ね」  雪夜の両側に座っている佐々木と相川が、茶化しながら雪夜のお菓子に手を伸ばしてきた。 「狩りって……」  俺は野生児かよ…… 「なちゅしゃ!あのね、ぶんぶん、ぴゅ~ん!しゅごいね!!」 「ん?」  雪夜が興奮した様子で腕を頭の上で振り回す。  何のことを言っているのかと佐々木を見ると、佐々木がにっこりと笑った。 「夏樹さんが面白い事してるって相川が呼びに来てさ、ちょうど雪夜も起きたから一緒に連れて行ったんだよ」 「ってことは……つまり……」 「雪夜も夏樹さんが投げ縄でヒツジを捕まえてるところを見てたってことです」 「げっ……!あれを見てたのかぁ~~……」  ああ、だから『ぶんぶん、ぴゅ~ん!』ね……! 「え、雪夜怖がってなかった?」 「全然?夏樹さんスゴイ!かっこいい!って大喜びだったぞ?良かったな」 「マジで!?雪夜、俺カッコ良かった?」 「なちゅしゃん、かっこい~ね!」 「そかそか~!ありがと~!」  動物を取り押さえてるところなんて見たら雪夜が怖がるかと思ったのだが、どうやらその心配はなかったらしい。    むしろ、雪夜が喜んでくれたみたいだし、頑張って良かった! ***  ――木崎が来てから程なくして、暴れていた連中ごと引き上げてくれたので、ようやく夏樹たちは少し遅い昼ご飯をみんなで食べた。  昼からどうしたいか聞くと、雪夜はヒツジが見たいと言い出した。  夏樹が捕まえているのを見てヒツジに興味を持ったらしい。  柵が壊れているせいで広場に出せないので、ヒツジたちは厩舎に入ったままだ。  雪夜は、厩舎にぎゅうぎゅうにつめこまれたヒツジたちにちょっとビックリしていたが、エサをやったり、毛に触れて思ったよりもフワフワじゃないことにショックを受けたりしつつも動物とのふれあいを楽しんでいた。  ちなみにその頃、午前中に十分遊び倒していた裕也たちは、スタッフを引き連れて牧場内での改善点などを指摘しつつ、破損した部分を簡単に修復して回っていたので、めちゃくちゃ感謝されていた。  実はあの後、牧場側としては、壊された部分を直さなければいけないし、動物たちも興奮していてとても普段の営業が出来る状態じゃないので、貸し切りは日を改めて……つまり暗にと言っていたらしいが、せっかく雪ちゃんが楽しんでいるから、と斎が予定通り遊んで帰ると言ったらしい。 「そりゃ、向こうの気持ちもわからんでもないが、こっちだって、暴れている連中や動物を捕まえるためだけに来たわけじゃないしな。少しくらい楽しませて貰ってもいいだろう?」  ということらしい。  はい、ごもっともです。 *** 「ありがとうございました!またのお越しをお待ちしております!!」  夕方、スタッフ総出の盛大な見送りを受けながら、夏樹たちは『わくわくアニマルふれあい牧場』を後にした。   「雪ちゃん、後ろおいで~!」 「はーい」 「え、雪夜大丈夫?」  来る時に酔っちゃったし、また酔っちゃうんじゃ…… 「酔い止めは飲んだんだろ?向こうでもちょっと寝てたし大丈夫だろ」 「もしまた酔っちゃったらお前のところに連れて行くよ」 「いや、酔わせないでくださいよ」 「車酔いばっかりは仕方ねぇだろ?俺らのせいじゃねぇし」 「それはそうですけど……あ、あんまりお菓子とか食べさせないで下さいね!?」 「わかってるって!」  結局帰りも雪夜は兄さん連中に取られてしまった。 *** 「あははは!!」  後ろからやたらと楽しそうな笑い声が聞こえて来たので夏樹が振り返ると、雪夜が兄さん連中とぬいぐるみで遊んでいた。  帰り際に兄さん連中がお土産に買ってくれたものだ。 「雪ちゃん、楽しかったか~?」 「うんうん!いっぱいだっこした!」 「そうか、そりゃよかった」 「またどこかみんなでお出かけしような~!」 「あい!いこー!いこー!」  いや、またみんなで行くの!?  兄さんら、先手打って来たな……    夏樹は一瞬、苦虫を嚙み潰したような顔をした。  だが……すぐに苦笑してため息をついた。  みんなで出かけることを喜ぶっていう普通のことが、ほんの半年程前ならっていうことを考えると、それだけでも感慨深いものがある……  夏樹はニコニコと笑っている雪夜を眺めながら、口元を綻ばせた。  雪夜が少しずつ成長……もとい、回復していく。  雪夜が笑っている……  雪夜が喋っている……  雪夜が歩いている……  当たり前のことだけど、当たり前じゃないということは、ここにいる全員が知っている。  今日のお出かけは雪夜にとってかなり大きな一歩だ。  そうだね……またどこか行こうね。  いろんな所に行こう。  いろんなものを見よう。  いっぱいお出かけしよう。  みんなと、佐々木たちと、俺と……  そして、きっといつか……ひとりでも……気軽に出かけられるようになる日が来るよ。   *** 「なちゅしゃ~ん……ぅえぇ~」  バスが対向車待ちで停まっている間に雪夜がよたよたと歩いて来た。 「って、ええ!?結局酔っちゃったの!?」  さっきまでめちゃくちゃ元気そうだったのに…… 「やっぱり山道はダメだな~」  後ろからついてきた晃が頭を掻きながら苦笑いをする。    だから言ったのに~! 「ほら、おいで雪夜」 「ぅ゛~~~」 「よしよし、大丈夫だよ――」  雪夜は朝と同じように横になって夏樹の膝に頭を乗せた。  お出かけするのも大変だ。  でも、乗り物にも少しずつ慣れて行けばいい。  少しずつ……ね。   ***

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