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夜明けの星 7.5-1(夏樹)

 “はじめてのお出かけ”からの帰宅後もテンションが上がりっぱなしだった雪夜は、案の定、翌日から一週間程寝込んだ。  熱を出して寝込むことは予想していたが、夏樹の予想外だったのは…… 「ぅ゛~~~~……」  翌朝、雪夜は全身筋肉痛に悩まされていた。  それもそのはずで、雪夜は毎日リハビリをしているとは言っても、基本的にはルームランナーで歩くか、別荘内をウロウロするだけだ。  それが昨日は、何時間も動物を追いかけてしゃがんで移動したり中腰で追いかけたりと、普段しない動きをいっぱいしていたのだ。   「そりゃ筋肉痛にもなりますよね~。いや~、すみません。もっと早く気付くべきでした」  雪夜の様子を見に来た学島(がくしま)が苦笑いをしながら頭を掻いた。  夏樹たちにとっては何気ない普通の動作でも、雪夜にしてみればかなり激しい運動をしていたわけだ。  雪夜は『痛覚』が少し鈍い。  隆文(たかふみ)は、たぶんそれは監禁されていた時に『痛覚』を無意識に切り離していたせいだろうと言っていた。  でも、発熱による関節痛と、全身筋肉痛のせいで、少し動いただけであちこちが痛いという状態に、さすがの雪夜も痛みを無視できないらしく、朝から軽くパニック状態になっていた。   「よしよし、大丈夫だよ。お薬飲んでおこうね」  夏樹はぐずりながらしがみついてくる雪夜を宥め、薬を飲ませて、眠るように促した。  雪夜は夏樹が軽く背中を撫でると、痛かったのか顔をしかめていたが、それでも撫でるのを止めろとは言わなかった。    その後、雪夜が眠り込んだのを見計らって、学島が筋肉痛を緩和するマッサージをしてくれたのだが、眠っていても触られると痛いらしく、雪夜は眠りながら学島の手をペチペチと叩いていた。 「雪夜くん、夏樹さんには怒らないのに、ガク先生には怒るんだ?寝てるのにわかるのかな~?」  学島がちょっと苦笑する。 「いや、それはたぶん、俺がしても叩いてきますよ」  寝ている時はさすがに無意識だから…… 「やってみます?」  学島に促されて夏樹が雪夜の足をマッサージすると、雪夜は若干眉間にしわを寄せたものの、叩いてくることはなかった。 「ほらね?やっぱり雪夜くんはわかってるんですよ。夏樹さんの手を覚えてるってことじゃないですかね?それか、夏樹さんのマッサージがよほどうまいのか……」  学島が真剣な顔で夏樹の手をじっと見てきた。 「手を覚えてる……ですか?」 「手もひとりひとり違いますからねぇ」 「……覚えてくれてたら嬉しいですけどね」  夏樹が自分の手を見ながらしみじみと呟くと、学島が「それにしても!」と話しを変えた。 「これは元気になったらリハビリメニューを考え直さないとダメですね~」 「例えば?」 「う~ん、外に出られたら一番いいけど、まぁ、家の中でももう少しいろんな動きをして、いろんな部分の筋肉をつけていかないと……」 「いろんな動き……」  いろんな動きって……何だろう?  夏樹が筋肉痛になるのは愛華の特訓を受けた時くらいだからあまり参考にならない。 「でもまぁ、まずは熱が下がらないとどうしようもないので、しばらくは安静にしてるしかないですね」 「わかりました」 「雪夜くんの熱が下がるまでに、何かいい運動方法がないか考えてみますよ。楽しく遊びながらできるようなのが一番いいですよね」 「そうですね、お願いします」 ***  学島が寝室から出ていくと、夏樹は雪夜のおでこの冷えピタを貼りかえた。   「手……か」  夏樹は改めて自分の手の平を見つめて、ふっと微笑むと雪夜の頭を撫でた――…… ***

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