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夜明けの星 7.5-4(夏樹)

――そうそう、それで、次はここを……こうして……」 「こう?」 「うん、上手!あとは、ここをこうすれば……完成~!」 「できた~!」  リビングから菜穂子(なおこ)と雪夜の楽しそうな声が聞こえて来る。  晩飯を作っていた夏樹は、二人の様子に口元を綻ばせた。 「雪ちゃん、もう一個作ってみようか!」 「は~い!」  雪夜が嬉しそうに新しい折り紙に手を伸ばした―― ***  初めてのお出かけの後、一週間ほど寝込んでいた雪夜だったが、熱が下がってからはまた元気にリハビリを始めた。  学島(がくしま)が考えてくれた新しいメニューは、幼児用の身体遊びのためのプログラムに使われるものらしいが、雪夜はそれが気に入ったらしい。  ゲーム感覚のプログラムもあって、簡単だけど結構夢中になれるので夏樹たちも何気に楽しんで一緒にやっている。    12月に入ると、兄さん連中は何かと忙しそうで、別荘に来る回数は減った。  斎も、年末にかけてイベント事が多くなるこの時期は副業の方も忙しくなるらしく、斎の代わりに菜穂子が来てくれることが増えた。 「もう雪夜も元気になったし、何かあれば学島先生にも助けてもらえるから、毎日じゃなくても大丈夫だって言ったんですけど……」 「あら、私が来るのは迷惑?」 「そんなことはないです!ただ、なお姉がここにいるってことは斎さんがひとりでしょ?淋しがってるんじゃないかと……」 「あ~いいのいいの。どうせ仕事が忙しくて家になんて帰ってこないから」 「あらら……」 「それに雪ちゃんと一緒に作りたい物もあったしね~!」 「作りたい物?」 「ふふふ……まだ内緒です」  菜穂子がいたずらっぽく笑った。 *** 「じゃあ、次はどれ作る~?」 「ん~……これ!」 「よ~し、これね……ちょっと折り方思い出すから待ってね。その間、雪ちゃんは歌ってて!」 「は~い!ふんふんふんふんふんふんふ~ん……ふふん?」  菜穂子に言われた通りに、鼻歌を歌い出した雪夜は、途中でメロディーがわからなくなったらしく首を傾げた。   「ふんふんふんふんふんふんふ~ん」  菜穂子が折り紙を折りながら先を続ける。  っていうか、なお姉、なんで今の雪夜の鼻歌が『キラキラ星』だってわかったんだ……?    夏樹には何の曲なのかわからず、雪夜と同じように首を傾げていたのだが、なぜか菜穂子はすぐにわかったらしい。  菜穂子と一緒に雪夜が嬉しそうに鼻歌の続きを歌っているが、とても同じ曲を歌っているとは思えなかった。 「雪ちゃんはあんまり歌を聞いたことないんじゃない?」 「え?」 「音楽も言葉も耳で聞いて覚えるものでしょ?聞いたことがなければ歌うことができなくても仕方ないよ」  菜穂子に言われてハッとする。  そういえば、病院では歌なんて流してなかったし、別荘でも特に歌を流すことはない。  雪夜が聞いたことのある歌と言えば、雪夜を落ち着かせるために裕也さんが見せていた夏樹の弾き語り動画か、菜穂子が教えてくれる童謡くらいだ。  リハビリの時にたまに曲を流すが、歌詞は入っていない。  声が出なかったせいで音痴なのかと思っていたのだが、どうやら、原因はそれだけではなかったらしい。  そうか……聞いたことがなければ歌えないよな……  『音楽のない生活』を意識していたわけではない。  ただ、生活の中で音楽がないことに違和感を感じないくらい、夏樹自身に余裕がなかったということなのかもしれない。  声が出なかった時は、雪夜がいつ声が出るようになるかわからないから、聞き逃したくなくて音楽を流す気にはなれなかった。  声が出てからは、雪夜の声をいっぱい聞きたくて、雪夜と話したいことがたくさんあって、音楽にはあまり興味がなかった。    たまには曲を流して雪夜に聞かせなけりゃダメってことかな……  何か曲……どんな曲がいいんだ?  流行の曲とか全然わからないな……  夏樹も一緒に『音楽のない生活』をしていたので、全然流行曲について行けていない。 「やっぱり最初は童謡がいいですかね?」  夏樹はひとまず、童謡を探して携帯を弄りながら菜穂子に聞いた。 「お?曲流す?童謡なら私のタブレットに入ってるよ」 「あ、じゃあちょっと借ります」 「は~い」  夏樹が菜穂子のタブレットから童謡を見つけて流すと、雪夜は、身体を左右に揺らしながら楽しそうにふんふんと鼻歌を歌っていた。  ノリノリの雪夜が可愛い。  よし、雪夜のためにもこれからはいろんな曲を流していっぱい聞かせよう!!   ***

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