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夜明けの星 7.5-5(夏樹)

「ぅ~寒いぃ~!あけおめ~!」  佐々木と相川が賑やかに入って来た。 「ああ、明けましておめでとう。雪大丈夫だったか?」 「道の端の方はまだ結構雪残ってた。(たかし)さんに乗せてきてもらって良かった~」 「無事に辿り着いて良かったな。隆さんは?」 「あ~、こっちの冷蔵庫じゃ入りきらないから母屋の冷蔵庫と冷凍庫に持って来た食材を放り込んでから来るって言ってた。雪ちゃん、あけおめ~!」 「雪夜、明けましておめでとう!元気だったか?」  ちゃっかりと雪夜の両側に座って、佐々木たちが両側から雪夜を抱きしめる。 「あはは、つめた~い!」  二人に抱きしめられて、雪夜が嬉しそうに笑った。  おいこら!雪夜で暖を取るな!  雪夜が冷えちゃうだろうがっ! 「道路の雪かきって夏樹さんがしたの?」 「そんなわけねぇだろ。愛ちゃんが今訓練してる奴らを引き連れて、冬山訓練の一環で雪かきしてくれたんだよ」 「へぇ~……え、じゃあ愛ちゃんも来てるの?」  相川がキョロキョロと周囲を見回した。 「今朝来てたけど、1時間くらい休憩したらすぐに下山したぞ」 「うわ、すげぇな……」 「あの道をずっと雪かきしてきたのか……」 「別に一人や二人でしたわけじゃねぇし。たしか今回は十人くらいはいたと思うぞ」 「十人でも大変だろ~!?」 「まぁ……愛ちゃんが一緒にしてないだけマシだろ」 「……どういうこと?」  愛華は慣れない雪かきで怪我や事故がないように監督しながら、指示していくだけだ。  愛華が一緒にしないのは、若い衆のためでもある。  一緒にすると、あまりにもスピードが違い過ぎて若い衆がついて行くのが大変なので、監督だけしているのは愛華なりの優しさなのだ。 ***  12月はみんな飲み会や仕事で忙しく、ほとんど別荘には来られなかったので、夏樹たちはめちゃくちゃ静かに平穏に過ごしていた。  だが、兄さん連中は別荘に来たくて仕方がなかったらしい。  12月に入った頃から、相次いで「正月は別荘で過ごす」と連絡してきた。  そして年が明けた、1月1日(本日)。  大晦日の昼過ぎから降り出した雪で、別荘までの道路が雪に埋もれてしまった。  さすがに大雪の時ほどではなかったが、それでも雪かきもされていない山道を走るのは危ない。  この雪じゃみんな来るのは無理だな、と思いながら道路の様子を見に行った夏樹の目に飛び込んできたのは、真っ赤なスキーウェアを着込んだ愛華とヘトヘトになりながら雪かきをしている若い衆の姿だった。  正月は組の方でも何かと忙しい。  本来ならこんなところで雪かきなどしている場合ではないはずなのだが、(いつき)たちから正月を別荘で過ごすと聞いていた愛華が、 「可愛い雪坊のためにみんなが集まると言うのに、雪なんかに邪魔されて(たま)るもんかね。若い衆の訓練にもちょうどいいから雪かきしといたよ」  と、夜明け前からずっと雪かきをしながら登って来てくれたらしい。  連れて来られた若い衆には同情しかない。  夏樹は急いで凍えきっている若い衆を母屋のリビングに入れて、タオルと温かいスープを出してやった。  スープは朝食用に作っていたものに具を足して量を増やした。  若い衆が休憩している間、愛華は嬉々として雪夜に会いに行き、まだ寝起きでボーっとしている雪夜を思う存分抱きしめてスリスリして……満足するとさっさと引き揚げて行った。 「私も正月過ぎたら一度遊びに来ようかねぇ。雪坊ともっとゆっくり過ごしたいからね」 「はいはい、いつでもどうぞ」  この様子じゃ、ホントに正月過ぎには来るな。 「それじゃ。あぁ、凜坊。忘れるところだった。はい、お年玉」  白季組では、毎年組長から組員へお年玉が渡される。  前年度の働きに応じて微妙に金額が違うので、意外と組員のモチベーションアップに繋がっているらしい。  まぁ、組員が少ないから出来ることなのかもしれない。 「ありがと……ってこれ多くない!?」  白季組では当たり前のことなので、夏樹も成人してからも一応もらっている。  組員ではないし、瀬蔵とはしょっちゅうケンカをするので、年末にケンカをした時などは五円玉一枚だった年もある。  夏樹へのお年玉は瀬蔵の気分次第なのだ。  が、今年は明らかに例年よりも重く分厚い。 「雪坊の分も入ってるからね」 「え、雪夜の分って、でも……」 「あの子に必要な物は私じゃわからない。だから、使い道はあんたに任せるよ。何か必要な物があればそれを使いな」  つまり、瀬蔵からのお年玉に愛華も上乗せしているということだ。  雪夜に直接渡さなかったのは、買い物に行くことができない今の雪夜にお金だけ持たせるのは酷だろうという気遣いもあるのかもしれない。 「……わかった、ありがとうございます」 「良い子だね。それじゃあ、また来るからね」 「愛ちゃん、気を付けて帰ってよ?下りの方が滑るんだから」 「私が滑るわけないだろう?」 「いや、愛ちゃんじゃなくて若い衆の心配してんだよ!」 「はいよ~。ほら、みんな行くよ~!」  愛華はひらひらと手を振りながら、若い衆を引き連れて山を下りて行った。 ***  愛華たちの雪かきのおかげで、無事に兄さん連中は別荘に来ることが出来た。  店がある隆や晃は大晦日の夜まで大忙しだったが、正月三が日は休みにしたらしい。  隆などは、新年会や同窓会の予約の電話がかなりあったらしいが、正月三が日は断ったとか……なんともやる気のない店だ。  さらに今回は晃と斎は夫婦で来ているため人数が一気に増えた。  みんなが集まるともうそれだけでお祭り騒ぎだ。  数日前までの静けさが懐かしい……  けど……雪夜はみんなが来てくれて喜んでるみたいだし……ひとまず良かった! ***

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