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夜明けの星 7.5-6(夏樹)
兄さん連中はフットワークが軽い。
特に楽しいことに関しては率先して動く。
到着するなり、みんなそれぞれ準備に取り掛かった。
別荘のあちらこちらから楽しそうな笑い声が聞こえて来る。
担当は大きく三つ。
料理担当、飾りつけその他雑用担当、雪夜担当だ。
飾りつけその他雑用担当は菜穂子 と、晃 の愛妻の真子 、浩二、裕也、晃、玲人 、学島 だ。
人数が多いのであっという間に飾り付けを終えると、テーブルやいすの用意を始めた。
夏樹は佐々木と相川に雪夜を任せて、娯楽棟のキッチンに立つ斎 と母屋のキッチンに立つ隆 の間を行ったり来たりしていた。
「おい、ナツ。このチキンの丸焼き、母屋のオーブンに放り込んで来てくれ。で、帰りにタカがさっき持って来た追加のチキンを持って来てくれ」
「は~い。って、斎さん、これ熱々じゃないですか!?」
「だからちゃんと耐熱手袋用意してやってるだろ?」
「っていうか、これはこっちで焼いて向こうのは向こうで下味つけて焼くようにした方が早いんじゃないですか?」
「オーブンの火力が違うんだよ」
「あ~……なるほど。了解です」
オーブンから取り出したばかりの熱々のチキンの丸焼きを乗せた角皿を持って母屋へ急ぐ。
「隆さん、オーブン空いてます?」
「空いてるぞ~」
「じゃ、これお願いします。あと、何か用事あります?」
夏樹は冷蔵庫からチキンを取り出しつつ隆に声をかけた。
「ひとりはヒマだから誰かこっち来いよって言っといて」
「みんな向こうで準備中です」
「え~……じゃあ、浩二でいいよ。あいつはどうせたいしたことしてねぇだろ」
「浩二さん、こっちで役に立ちます?」
「……つまみ食いするだけだな。さっさと作ってそっち行くか」
「出来てるやつから運びましょうか?」
「じゃ、ここら辺のやつ持って行ってくれ」
夏樹は隆から重箱を受け取ると、また娯楽棟に戻った。
***
「なつきさん、なにしてるの?」
夏樹が兄さん連中の間をウロウロしていると、雪夜に服を掴まれた。
雪夜は佐々木たちと二階のトレーニングルームで遊んでいると思っていたので、少し驚いた。
「ん?今ね、準備してるんだよ」
「じゅんび?」
雪夜が眉間にしわを寄せて首を傾げる。
「うん、あ~、ちょっとこのチキンを斎さんに届けなきゃいけないから、雪夜も一緒に来てくれる?」
「は~い!」
斎にチキンを届けると、夏樹は振り向いて後ろからついて来ていた雪夜を抱き上げ、ニコっと笑いかけた。
「はいお待たせ。雪夜どうしたの?」
「……」
夏樹が話しかけると、雪夜は無言でギュっと抱きついて来た。
別荘中がざわついてるから不安になったのかな?
ポンポンと背中を軽く撫でる。
「雪夜、今日はみんなでパーティーするからね!」
「ぱんてぃ?」
「ん~……それだと意味が変わって来るな~……まぁ、楽しいことするから、その用意をしてるんだよ。喉渇いてない?何か飲む?」
「ん~ん、のまない。だいじょぶよ」
「そか。佐々木たちは?一緒にいなかったの?」
佐々木たちが雪夜をひとりにするはずはないのだが……
「はいはーい、いるよ~」
佐々木と相川がリハビリルームからお花紙で作った花を持って来た。
「さっきまで二階でお絵描きして遊んでたんだけど、夏樹さんが何してるのか気になって落ち着かない様子だったから連れて来たんだよ」
「なるほど。で、なんでお前らは飾りを持ってるんだ?」
「落ちてたから貼り直そうと思って。そしたら、もう新しい花が貼られてたからもらって来た」
「雪ちゃん、お花だぞ~」
相川が雪夜の頭に花をペタッと貼り付けた。
「わ~!おはな!きれーねー!」
雪夜は、頭についた花をそっと触って嬉しそうにパチパチと手を叩いた。
「うんうん、いいぞ!雪夜似合ってる!」
雪夜が笑ったので佐々木たちも笑う。
「なつきさん、みて!」
「うん、可愛いね!似合ってるよ!」
「んふ~!」
雪夜はみんなに可愛いと言われ、満更でもない顔をすると、今度は嬉しそうに夏樹に抱きついて来た。
顔に花が当たってくすぐったいけど、雪夜が嬉しそうだからもうちょっとこのままでいいかな。
***
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