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夜明けの星 7.5-8(夏樹)

 昼前から始まったパーティーはゆる~く一日中続いた。  基本的にはクリスマス色が強いが、書初め大会やすごろく大会など、正月らしい遊びも挟みつつ、雪夜と一緒にみんなも大盛り上がりだった。  もちろん、先日のお出かけでの失敗を繰り返さないように、間でお昼寝を挟む。  が、雪夜を寝かしつけるのは大変だった。 「みんないる?ほんとにいる?」 「うん、みんな泊って行くからね。夜になっても、明日になってもみんないるからね」 「ほんと?」 「大丈夫。みんな約束してくれたでしょ?夜はね、またお楽しみがいっぱいあるからね。ちゃんと最後までみんなと楽しめるように少しだけ休憩しておこうね」 「……ぁぃ」  楽しい時ほど寝るのが怖い。  雪夜の気持ちは何となくわかる。  これが全て夢かもしれないという不安。  目を覚ましたらひとりかもしれないという恐怖。  それはきっと、誰もが一度や二度は感じたことがあるはずの感情だ。  特に子どもの頃の雪夜は、ほとんど病院や研究所で過ごしていたわけだから……  目を覚ましたらひとりぼっち……という恐怖感は心のどこかに残っているのかもしれない。 「……う~ん……」  夏樹は少し考えて、雪夜の顔を覗き込んだ。 「雪夜、みんなでお昼寝する?」 「……みんな?」 「うん、ちょっと待ってね」  夏樹は斎を呼び、「兄さんたちも一緒にお昼寝しませんか?」とだけ言った。  斎はチラッと雪夜を見ると「わかった。んじゃちょっと準備するから待ってろ」と他の兄さん連中のところに戻って行った。  斎ならたぶんすぐに夏樹の意図することに気付いてくれるはずだ……とは思ったが、あまりにもあっさりと承諾されたので、さすがに夏樹も驚いた。    え、ホントにわかったの?  っていうか、斎さん!?何がわかったんですか?    自分から言い出したくせに斎の行動に不安を感じていると、数分後、 「準備できたぞ~。雪ちゃんおいで~」  と、さっきまでパーティーをしていたリハビリルームの方から斎が手招きをした。   「雪夜、あっちで寝ようか」 「あっち?」 「それ持っていってもいいよ」  先日のお出かけで兄さんたちに買ってもらったぬいぐるみは、寝室に並んでいる。  全部のぬいぐるみと一緒に寝たいと言われたが、ベッドが狭くなるので、一緒に寝るのは一つだけ!と約束している。(夏樹との間にぬいぐるみが入ると邪魔だからというのが一番の理由だが、それは雪夜には内緒)  夏樹は、アルパカのぬいぐるみを抱きしめる雪夜を抱っこして、リハビリルームに向かった。 *** 「わぉ、スゴイですね」 「これならみんなで寝れるだろ?」  パーティー仕様になっていたリハビリルームからテーブルと椅子が廊下に出されて、広い空間が出来ていた。  料理の残りは、娯楽棟と母屋の冷蔵庫に突っ込んであるらしい。  かなり量があったはずだが……よく入ったものだと感心する。    リハビリルームは床が一面カーペット敷きだ。  エアコンをつければそのまま床で寝転んでもわりと暖かい。  だが、そのままでは寝心地があまり良くないので、雪夜がリハビリをする時に使っているマットを床に敷き詰めて、さながら、合宿のようなザコ寝状態でみんながゴロンと横になって上から毛布を被った。  雪夜は風邪をひくといけないので、羽毛の掛布団も被せる。 「雪夜、寒くない?」 「だいじょぶよ!みんなだいじょ~ぶ?」 「おぅ、大丈夫だぞ~」 「それじゃ、雪夜、みんなと一緒にお昼寝しようね」 「あい!おやしゅみ~!」  雪夜が嬉しそうにゴロンと横になって目を閉じた。 「「おやすみ~」」  斎さんがどう説明をしたのかはわからないが、みんな文句も言わずに雪夜のお昼寝に付き合ってくれる。  夏樹は、とりあえず雪夜が眠るまで付き合ってくれればいいと思っていたのだが、兄さん連中も昨夜遅くまで仕事に追われて、ほとんど眠らずに朝早くから駆けつけてくれていたので、お疲れだったのだろう。  結局、みんな揃って2時間程爆睡して、雪夜に起こされる羽目になった。  一足先に目を覚ましていた夏樹は、目を覚ました雪夜がみんなが爆睡する様子に驚きつつも何とも嬉しそうに満面の笑みを見せた瞬間を見ることができた。  本当は他にも数人、雪夜より早く目を覚ましていたようだが、みんな雪夜が起こしにくるまで寝たふりをしてくれていたようだ。  こうして、雪夜の初めてのクリスマス&正月パーティーの思い出に、『みんなでお昼寝』がプラスされたのだった。 ***

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