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夜明けの星 7.5-15(夏樹)
今回はバスではなく、数台の車にわかれて移動することになった。
いつの間に呼んでいたのか、雪夜にはいつものリムジンを用意してくれていた。
夏樹と斎は、前回のお出かけでは行きも帰りも気分が悪くなったので、雪夜は車に乗るのを嫌がるかもしれないと心配していたのだが、雪夜は車に乗るとそのまま夏樹にもたれて寝る体勢に入った。
どうやら、バスで酔った時に夏樹に膝枕をしてもらって眠れば回復したので、“車に乗ったら夏樹さんの膝枕で眠ればいい”と学習したらしい。
***
「着いたぞ~」
ウトウトしていた夏樹は、斎に肩を叩かれて目を開けた。
「雪夜、起きて~、着いたってさ」
「ぅ~……?」
夏樹は軽く伸びをしつつ、夏樹の膝に頭を乗せて寝ていた雪夜を起こした。
「ん~……」
「外は寒いからちゃんと着ておこうね。着たらまた寝てもいいから」
目を閉じてゆらゆらと身体を揺らしている雪夜を手早くもこもこにし直し、抱っこして外に出る。
「あれ?ここって……」
車から降りた夏樹は、周りの風景に見覚えがあることに気付いた。
「雪ちゃん、また寝ちゃったのか?」
「え?あ、はい。まぁ、そのうちに起きると思いますけど……あの斎さん、ここって……」
「んじゃ、行くか!……な?」
「……はい」
斎が夏樹の言葉を遮り、優しく微笑んで夏樹の肩を軽く叩いた。
……そういうことか……
夏樹たちは、先に着いていた兄さん連中と合流して、一緒に寺の境内に入った。
***
「ぅ~~……?……どぉこ?」
「ん?起きた?ここはお寺だよ~」
「おてら?」
わいわい言いながら参道を歩いていると、雪夜がみんなの話し声に気付いて目を覚ました。
夏樹は、雪夜がキョロキョロと周囲を見渡しているのを見て足を止めた。
「下りて歩いてみる?」
「ん~ん!」
雪夜は下ろされまいとして、夏樹にギュっと抱きついて来た。
この寺は山の麓にある。
山の麓にあるわりには木々が少なく、周囲も結構開けているので、あまり“山”という感じはしない。
それに、正月なのにあまり人が来ていない。
だが雪夜は、寺社仏閣の独特の空気感に怯えた様子で、地面に下りるのは全力で拒否してきた。
「わかったわかった。下ろさないから落ち着いて?ね?」
「あるくないよ!?」
「うん、わかった。歩きたくなったら言ってね?」
「あるくないもん!」
「はいはい」
***
頑なに「あるかない」「おりない」と言っていたが、さすがに参拝する時には空気を読んだのか、自分から「おりる」と言ってきた。
みんなの真似をしながら、手を合わせて頭をぺこっと下げる。
「ピャッ!?なちゅしゃ!!」
顔を上げた雪夜が小さく叫んですぐに夏樹にしがみつき顔を隠した。
あ……見ちゃったかな?
賽銭箱から本尊の仏像までは距離があるし、薄暗いのであまりハッキリとは見えない。
雪夜は賽銭箱やみんなの様子に気を取られているようだったので、夏樹は雪夜が仏像に気付く前にさっさと参拝してその場を離れるつもりだったのだが、顔を上げた時に見えてしまったらしい。
っていうか、あまり気にしたことなかったけど、考えてみれば不動明王像や金剛力士像みたいにいかつい顔してるのも多いし……普通に仏像って怖いよな……
夏樹は急いで雪夜を抱き上げると、仏像が見えない所まで移動した。
「雪夜、もう大丈夫だよ?仏像見えないから怖くないよ~?」
「ん゛~~~……」
「雪ちゃんどうしたんだ?」
「仏像と目が合っちゃったみたいです」
「あ~……そうか、そういや仏像は怖いよなぁ……」
斎がしまったという顔で頭を掻いた。
「今の雪ちゃんは、瀬ちゃんにも怯えてるくらいだもんねぇ……」
「瀬ちゃんなんて、金剛力士像の代わりに門に立ってても違和感ねぇからなぁ……」
「「言えてる!」」
なぜか話題が瀬蔵に移り、みんなが地味に瀬蔵いじりを始めた。
みんなの笑い声に雪夜も少し落ち着きを取り戻し、楽しそうな兄さん連中の方を気にし始めた。
「ナツ、雪ちゃん見ててやるから、お前はちょっと行ってこい」
雪夜が落ち着いて来たのを見て、斎が夏樹の背中を叩いた。
「え?いや、でも……」
「しばらく来れてねぇだろ?顔見せて来い」
「……でも雪夜が……」
「雪ちゃん、おいで」
斎が夏樹にしがみついている雪夜を引きはがした。
雪夜が慌てて手足をバタつかせる。
「ぃやんよ!なちゅしゃっ!?」
「はいはい、雪ちゃん、ちょっとごめんね~?ナツはこれから用事があるから、少しだけ斎さんたちと一緒に御守り見に行こうか」
「おまむり?」
「雪ちゃんの御守りも買おうな!」
「あい!」
「よし、じゃ、行こうか!」
「いこー!いこー!」
「え、ちょ……」
「そんじゃ、行ってきま~す」
雪夜を抱っこした斎が、ひらひらと夏樹に手を振った。
「雪夜ぁ~~~!?」
え~……俺、御守りに負けた?
っていうか、今の感じ、雪夜は御守りが何なのかわかってなかったよね!?
「~~~~……さっさと行ってくるか……」
ひとりになった夏樹は、大きく息を吐いて、斎たちとは反対方向に歩き始めた。
***
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