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夜明けの星 7.5-17(夏樹)
「あ~仕事か~……」
朝食後のコーヒータイム。
浩二が魂が抜けたような顔で天井を見上げた。
4日から仕事の兄さん連中は昨夜、晩飯後に別荘を発っている。
浩二も4日から仕事のはずだが、なぜかまだのんびりとコーヒーを飲んでいた。
「浩二さん、そんなにのんびりしていていいんですか?」
「んあ~?」
「今日から仕事でしょ?」
「お前な~、今せっかく現実逃避してんのに思い出させるなよ~……」
「いや、今自分で言ってましたけど……」
「正月明けて早々に真面目に仕事なんかやってられっか」
正月明けは毎年こうなので、だいたい新年の挨拶と、得意先への挨拶回りで終わる。
まぁ、一年を通して浩二が真面目に仕事をしているところなど、ほとんど見たことがないが。
とはいえ……
「さすがにそろそろ出ないと間に合いませんよ?」
「う~ん、タイヤがパンクしたとか~、事故で道が混むとか~……」
浩二が言い訳を考えていると、電話が鳴った。
「げ……」
浩二の秘書からだ。
「あ、こらっ!!」
浩二が携帯を投げようとしたので、夏樹が代わりに出た。
「もしもし?ああ、夏樹です。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。……はい、わかりました。伝えておきます。では……」
電話を切った夏樹は、浩二に携帯を返しつつにっこり笑った。
「社長、そろそろ別荘を出て下さいね。ちなみに、昼から楽しい楽しい会議2本立てです。遅刻したらお昼ご飯抜きですよ。だそうです」
「なんで俺がここにいるってわかったんだ!?あいつエスパーか!?」
「そりゃあ……年末ずっと「別荘に行きたい」って駄々をこねていたからじゃないですか?」
「そういやそんなこともあったな。去年のことなんてもう忘れてたわ」
「数日前ですけどね?はい、くだらないこと言ってないでさっさと準備してください!」
「へいへい……仕方ねぇなぁ……ああ、ヤングたちも今日帰るんだろ?なんなら途中まで乗ってくか?」
「え、いいんですか?」
雪夜と遊んでいた佐々木と相川が同時に振り返った。
「どうせ方向同じだしな」
「あざ~っす!じゃあ、急いで荷物取ってきます!もうまとめてあるんで……」
「そんなに急がなくてもいいぞ~。俺これから荷物まとめるし」
「これからっ!?」
相川と佐々木が顔を見合わせて苦笑した。
いやもうホントに……浩二さんは何でまだ荷物まとめてないんですか……
***
「かえるの?しゃ……さ~さ~きっ!あいかわも?」
荷物を持って下りて来た佐々木たちを見て、雪夜が慌てた。
佐々木たちはまだいてくれると思っていたらしい。
「うん、ごめんな~?雪ちゃんともっと遊んでいたいけど、休み明けに提出するレポートがまだ出来てないんだよね~……それに、翠 は今日の夜バイト入ってるし……」
「しょか……」
「雪夜、心配しなくてもまたすぐに来るよ!」
「ホント?」
「うんうん。約束だ!」
しょんぼりと項垂れる雪夜を佐々木と相川が両側から抱きしめた。
「そうだぞ~?心配しなくてもすぐにまたみんな集まるからな!」
斎と話しをしていた浩二がサラッと入って来た。
「え!?ちょ、聞いてませんけど!?」
みんな!?っていうか、すぐっていつ!?
「あ?何お前知らねぇの?イッキ、ナツに言ってなかったのか?」
「ん?ああ、言ってなかったっけ?」
パソコンを弄っていた斎が、顔を上げずに返事をした。
「聞いてませんよ!?」
「今聞いたからいいじゃねぇか」
「いや、え、待ってくださいよ、すぐっていつですか!?今度は何があるんです?」
「おいおい、ちょっと考えればわかるだろ?」
「……もしかして……」
「そゆこと」
「ああ……」
そゆことね……
「雪夜~、またすぐに来てくれるから、ちょっとだけバイバイしようか」
夏樹は、佐々木たちから雪夜を引きはがして抱き上げると、佐々木と相川に
「浩二さんが寄り道しないように監視役頼んだぞ」
と耳打ちした。
「う~~~ん……すき焼き鍋!」
「ブハッ!はいはい、わかった、次にお前らが来る時はすき焼き鍋も用意しておくよ」
相変わらず、夏樹が何か頼むと食べものを要求してくる二人に、思わず吹き出した。
「よっし!さあ、浩二さん行きましょう!!」
佐々木と相川は両側から浩二の腕を掴んだ。
「え、もう行くのか?もうちょっとゆっくりしても……」
「いやいや、俺ちょっと用事思い出しちゃったから、早く帰らないと!浩二さんお願いしま~す!」
「え~?用事って何だよ~?」
「野暮用ですよ、野暮用!」
「それじゃまたな~雪夜~!」
「雪ちゃん、またね~!」
「しゃしゃき!あいかわ!ばいば~い!」
浩二を引きずって行く二人に向かって、雪夜が名残惜しそうに手を振る。
「雪ちゃん、浩二さんもいるぞ~~~!!」
「あ、こうしゃんばいばい!」
雪夜が取って付けたように浩二に手を振った。
その様子を見ていた斎が盛大に吹き出して、ひとりで腹を抱えて笑っていた。
***
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