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夜明けの星 7.5-18(夏樹)
翌週、宣言通りにまた兄さん連中が集まった。
正月には一瞬しか顔を出せなかった愛華たちも、シレっと混ざって……
いつかのように、みんなで盛大に“雪夜の誕生会”をしてくれた。
1月は雪夜の誕生月だが、クリスマスと同様に、ちゃんと1月に雪夜の誕生会をするのは数年ぶりだ……
夏樹がすぐにピンと来なかったのは、そのせいだ。
もちろん雪夜の誕生会をすることに異存はない。
夏樹も今年はちゃんと雪夜の誕生日を祝ってやりたいと思っていた。
だが、一つ大きな問題があった。
雪夜は日によって精神年齢が違う。
だから、誕生会の朝は、今日は何歳なのかを聞き出すことから始まった。
……のだけれども……
「雪夜くんは何歳ですか?」
「……ごしゃい!……でしゅか?」
「5歳?ですか?」
最近はわりと年齢が高めだったのに、その日は久々に年齢が低めで、5歳と言いつつ手はピースをしていたり、もう一度聞くと今度は3歳だったり……つまり全然年齢がわからなかったのだ。
「どうしましょうか……今日の主役が完全に年齢不詳ですよ……」
「う~ん……ロウソク立てるのは諦めるか?『誕生日おめでと~!』だけで年齢は誤魔化すとか……」
さすがの斎も頭を抱えた。
「雪夜に「ゆきやはなんさいになったの?」って聞かれたらどうしましょう?」
「『一つ大きくなったんだよ~!』で乗り切る!」
「了解です!」
結局、全員に“雪夜の年齢に関しては触れないこと”を徹底して、誕生会を乗り切った。
雪夜は、最初は自分が何歳になったのか気にしていたようだったが、ケーキを食べると年齢のことなどどうでもよくなったようで、ニコニコしながらケーキを口いっぱい頬張っていた。
***
最初はどうなることかと思ったが、年齢不詳の雪夜の誕生会は雪夜の喜ぶ顔にみんながほっこりしながら終了した。
あっという間に一年が過ぎていく。
雪夜と過ごす日々はゆっくりと穏やかに過ぎていくのに、ふと周りを見ると、驚くほどの速さで季節が巡って行く。
そんな現状に、世間から取り残されたように感じて少しだけ不安になることも……
俺は……この先、どうすればいい?
「なちゅしゃん、あ~ん!」
「ん?あ~ん……」
ぼんやりと物思いに耽っていた夏樹は、雪夜の笑顔につられて口を開けた。
「……んん!?ウエッ!!ちょ、待って!?ゲホッ!雪夜これなに!?」
マグロの握りなのはわかったが、噛んだ瞬間鼻がツーンとなった。
「あのね、わしゃびのおしゅし!」
「えええ!?」
「ロシアンルーレット的なアレでわさび増量の寿司も作ってたんだ。その方が面白いだろ?」
片づけをしていた隆 がニッと笑う。
もちろん、雪夜にはわさび抜きのお寿司を用意していたので、これに当たる心配はない。
あくまで、兄さん連中の中での遊びだ。
それはいいのだが……
「で……ゲホッ!……ど、どうしてそれを俺に食わせるんすかぁ~……」
「誰も食わずに残ってたから。もったいねぇだろ?」
あいつら鼻が利くから、こんな手にかかるやついねぇんだよな~……
隆が残念そうに呟いた。
だから、なぜそれを俺に……
っていうか、こんな手にかからないってわかってるなら作らなきゃいいのに……っ!!
「いや、今日はヤングたちもいたから、もしかしたら引っ掛かってくれるかなと思ってさ。あ、ちゃんと辛み増し増しにしてあるぞ!」
そんな気遣いいらねぇえええっ!!
言い返そうにも、鼻の奥が痛くて、涙と鼻水が止まらないのでそれどころではなかった。
さすがにわさびの塊は食えないので、ティッシュで包んでゴミ箱に叩き捨てた。
あ~、もう!!
「なちゅしゃ?よしよし」
「あ゛~ありがと~……」
雪夜は、急に夏樹が泣きだしたので慌てて夏樹の頭を撫でて来た。
夏樹の口にわさび寿司を放り込んだのは雪夜だが、今の雪夜はわさびがどんなものかもわかっていないはずだ。
どうせ隆さんのことだから、雪夜には「これめちゃくちゃ美味しいからナツに食わせてやれ」とでも言ったんだろうな……
「……」
夏樹は頭を撫でてくれている雪夜の手を握った。
「雪夜ぁ~、ついでにぎゅ~もして?」
「あい!ぎゅ~~!」
「ふふ、ありがと」
もうとっくにわさびの辛みは治まっていたが、誕生会の間、兄さん連中や愛ちゃんに雪夜を取られっぱなしだったので、ここぞとばかりに雪夜を抱きしめた。
「あはは!」
少し強めに抱きしめると、雪夜が嬉しそうに笑った。
つられて夏樹も笑う。
「雪夜、誕生日おめでと!」
「あい!」
――誕生日、おめでとう
この一年が雪夜にとって記憶に残したい一年になるように……
楽しい事でいっぱいの一年になるように……
俺ももっと頑張るね!
夏樹は雪夜を抱きしめたまま、そっと呟いた――
***
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