502 / 715
夜明けの星 8-1(夏樹)
――誰かが泣いてる……?
「ん~……雪夜?どうしたの?こっちおいで……」
夢現に誰かの泣き声が聞こえた気がして、目を閉じたまま雪夜に手を伸ばす。
パタパタと手で探るが、雪夜らしき温もりに辿り着けない。
夏樹は徐 に目を開けた。
あれ?いない……
トイレか?
時計を見るとまだ深夜だった。
暗闇がダメな雪夜のために常に灯りをつけているので、寝惚けていると一瞬時間がわからなくなる。
「雪夜~?」
様子を見に行くと、リビングに雪夜の姿があった。
雪夜はソファーでアルパカのぬいぐるみを抱きしめながら膝に顔を埋めていた。
「どうしたの?目が覚めちゃった?」
「……っ……」
夏樹が隣に座ると、雪夜はゆっくりと顔をあげて潤んだ瞳で夏樹を見た。
やっぱり泣いてたのか……
「おいで、怖い夢でも見ちゃった?」
珍しいな、怖い夢を見た時はいつも俺にひっついてくるのに……
雪夜が夜中にひとりでベッドを離れることなどほとんどない。
喉が渇いた時も、トイレに行きたい時も、普段なら夏樹を起こして一緒にいく。
夏樹は少し違和感を覚えつつも、雪夜に両手を広げた。
怖い夢を見た時は、夏樹が抱きしめてあやしてあげれば落ち着く。
いつものことなので、もう慣れたものだ。
だが、この日の雪夜は様子が違った。
「っ……」
「ん?」
「――……」
「……え……?」
***
ともだちにシェアしよう!