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夜明けの星 8-3(夏樹)

 梅雨に入って、外に行く機会が減った。  とはいえ、元々何か月も別荘に籠りきりだったので、それ自体は特にストレスがたまるようなことはない。  兄さん連中もしょっちゅう集まってくれて、室内でもいろいろと身体を使っての遊びやイベントを考えてくれていたので、雪夜も楽しそうにしていた。  昼間思いっきり遊んで思いっきり笑ってクタクタになるので、夜もぐっすり眠れる。  ぐっすり眠っている時の雪夜は、うなされることもない。  表面的にはすべてが順調に見えていた。  だが、体力がついてきて前ほどすぐに疲れなくなってきてから、またうなされることが増えて来た。  以前は夜うなされて寝不足になると、一日中グズグズだったこともあるが、最近は寝不足でも昼間のテンションが高い。  雪夜が楽しんでいるのはいいが、そのせいで余計に夜うなされているような気がする。  兄さん連中と一緒にはしゃぐ雪夜を見ていた夏樹は、「子どもは自分の限界がわからないから、無茶をしやすいの。楽しい時は特にね。ナツ君なら大丈夫だと思うけど、ちょっと気を付けてあげてね」と、以前なお姉に言われたことを思い出した。  夏樹も普段から気を付けてはいるけれど、雪夜が楽しそうだと、もうちょっとそのままでいいかな……と思って一歩引いて見守ってしまっていたところがある。  雨で外出出来ないし、今のうちにちょっとクールダウンさせた方がいいかな…… ***  その日は、梅雨前線と低気圧の影響で昼過ぎから雨風が強まっていた。  別荘は造りがしっかりしているので、ちょっとやそっとの風にはビクともしない。  それなのに、室内にいてもギシギシと軋む音や唸るような風の音が聞こえてきた。  台風並みだな……  夏樹は、雪夜がお昼寝をしている間に室内のBGMの音量を上げた。 「雪ちゃんは大丈夫そうですか?」  電話の向こうで、の斎が心配そうに聞いてきた。 「そうですね……今のところは」 「すみませんね、誰かそっちに行けたら良かったんですが……」  荒れ模様になりそうな日には、たいてい斎か裕也が来てくれる。  暴風雨、雷、音、水……雪夜のトラウマを刺激するような材料が揃っているからだ。  だが、今回斎たちは副業の方が大詰めらしく、しかもちょっと大掛かりになるため兄さん連中が全員そちらに出張(でば)っているので、誰もこちらに来ることが出来なかった。  今この別荘にいるのは、夏樹と雪夜と学島の三人だけだ。 「いえ、まぁ、学島先生がいるので何とかなるとは思います。斎さんたちこそ、こんな日に大変ですね」 「ああ、まぁこっちは別に……こういう日の方が周りに音を聞かれないので、やりやすいんですよ」  ハハハ……何を?とは聞かないに限る!   「あ、そろそろ雪夜が起きるので……」 「はい、何かあればいつでも連絡をくださいね。あ~……20時以降は裕也は出られると思いますので」 「わかりました」  つまり、20時以降は斎たちには連絡をしてくるなと言うことだ。   「では、また」  夏樹は受話器を置いた。  荒れ模様の時には電波が悪く圏外になってしまうので、携帯ではなく別荘の固定電話で連絡を取るようにしている。 「なつきさ~ん……」  雪夜が目を擦りつつ寝室から出て来た。 「ん?あ、起きた?おはよう雪夜~!」  何が違うのかはわからないが、雪夜は朝はぐずぐずなことが多いが、昼寝の時はわりと寝起きがいい。  夏樹が両手を広げると、雪夜も両手を広げてちょっと早歩きで近付いて来た。   「ん~~~!!へへ、おはよ~。なにしてるの?」  抱きついてくるなり夏樹の胸に顔をグリグリとこすりつけ、ニコっと笑う。  随分とご機嫌だ。 「斎さんから電話があってね、今日は誰も行けないけど雪夜が淋しがってないかな~って」 「いつきさん、こないの?」 「うん、今日はね、兄さんたちみんなお仕事が忙しいんだってさ」 「そかぁ……」  雪夜は椅子に座ると足をブラブラさせながら夏樹が入れたお茶を飲んだ。 「なつきさん、きょうおでかけ、ないの?」 「お出かけはしないよ。外は雨が降ってるからね。それにほら、時計見て?もう夕方だよ」  別荘では一日中灯りがついているので、時間の感覚がなくなる。  雪夜が昼と夜の違いがわかるようにと、(あきら)が誕生日に、『AM』『PM』の代わりに、太陽と三日月のマークが出るデジタル時計をプレゼントしてくれた。  おかげで、雪夜もパッと見るだけで昼か夜かがわかるようになった。  もちろん、アナログ時計もあるが、まだ時計の読み方は勉強中だ。   「晩ご飯が出来るまで、もうちょっと待っててね」 「は~い!」  雪夜は、おもちゃ置き場に行くと、ボードゲームを持って来た。  入院中、兄さん連中がこぞってプレゼントしてくれたので、ボードゲーム屋さんが開けるんじゃないかと思うくらいいろんな種類のボードゲームがある。 「これする!」  おっとぉ?二人用? 「俺も一緒にするの?」 「するの!」 「う~ん、じゃあ、とりあえず2回ね」  夏樹はエプロンを置いて雪夜の前に座った。 「え~……?」 「俺も雪夜ともっと遊びたいけど、今日は晩ご飯作る人が俺しかいないんだよね~」 「あ……しょか……」 「晩ご飯食べたらまた一緒に遊ぼうね」 「はーい!」 「よし!早速始めますか!」  今日は簡単メニューで親子丼と野菜スープと昨日の残りのひじきの煮物だ。  雪夜が寝ている間に仕込みはほとんどしてあるし、スープはもう火にかけているので、後は親子丼を作るだけだ。    明け方にかけてもっと天気が荒れてくるみたいだし、18時くらいには晩ご飯を食べて、さっさと風呂に入って、早めに寝た方がいいな。  夏樹は雪夜と遊びながら、BGMの合間に聞こえて来る風の音に耳を澄ました――……     ***

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