505 / 715

夜明けの星 8-4(夏樹)

「よ~し、それじゃ後は温まって出ようか」 「はーい!」  夏樹は、雪夜と自分の身体についた泡を流して、雪夜を抱き上げた。  風呂に入るのを以前ほどは嫌がらなくなったものの、やはり湯舟に浸かるのは夏樹が抱っこしていないと無理だ。 「じゃあ、ゆ~っくり30まで数えてから出ようか?」 「い~~~ち、に~~~い……」  雪夜は湯舟に浸かっているとすぐにのぼせてしまうので、ぬるま湯にしている。  それでも、10分が限界だ。  湯船に浸かって少し遊んでから、頃合いを見て数を数えさせる。  数はその日の雪夜の体調によって変わる。  今日はあまり長風呂はさせない方がいいと思ったので短めだ。 「さ~~~んじゅ~~~~っ!!」  30まで数えた雪夜が、もういい?と夏樹の顔を見た。 「はい、いいよ」  夏樹は苦笑しながら雪夜を湯舟から出した。 「ちゃんとバスタオルで身体拭いてね?」 「は~い!」  最近は雪夜がだいぶ風呂に慣れて来て、身体を拭いたり服を着たりがひとりでも上手に出来るようになってきたので、雪夜が先に出て自分で身体を拭いている間、夏樹は少しだけ長めに湯舟に浸かることが増えた。  雪夜と一緒に風呂に入るのは楽しいけれど、かなりな苦行でもあるので、雪夜が出た後ひとりでゆったりと湯舟に浸かって頭を空っぽにする瞬間が最高にリラックスできる。   「はあ゛~~~……」  今日もよく頑張った俺!!   *** 「雪夜~、ちゃんとバスタオルで拭いてから服着るんだよ~?」 「は~い!」 「拭けた~?」 「まぁだ!」  湯舟に浸かりながらも、脱衣所にいる雪夜に声をかける。  どうせすぐに出るから浴室の扉は開けたままだ。    さてと、そろそろ出るか……  夏樹が湯舟で大きく伸びをした瞬間、バリバリッという空気が引き裂かれるような音がして、フッと真っ暗になった。  ちょ……嘘だろ!?停電!? 「雪夜っ!?」  目が慣れていないのに真っ暗な中を移動するのは危険だ。  1分程で予備電源がつくはずなので、それまで待った方がいい。  だが、雪夜の声が全くしていないことに気付いて、慌てて立ち上がった。  浴室内の状態は覚えているので、だいたいどこになにがあるのかはわかっている。  ただ、脱衣所の状態がわからないので、浴室の入口で立ち止まった。 「雪夜っ!?大丈夫!?」  あんな大きい音がしたのに叫び声ひとつ聞こえなかった……  雷の音で聞こえなかっただけか?  暗闇の中、手探りで入口近くに置いてあるバスタオルを手に取った。 「雪夜!?返事して!?どこにいるの!?」  呼びかけて耳を澄ます。 「……っ……」  闇の中から微かに呼吸音がした。  一応脱衣所にいるらしい。 「すぐに明るくなるから、そこから動いちゃダメだよ!?危ないからじっとしててね?」  雪夜の気配がある方へ近づこうとした瞬間、電気がついた。 「あ、ほらついた!雪夜?」  雪夜は脱衣所の真ん中でバスタオルを頭から被ってしゃがみ込んでいた。 「雪夜!もう大丈夫だよ!おいで?」  イヤな予感に内心焦りつつも、あえて明るく雪夜に声をかけて抱き上げようと手を伸ばした。   「――っ!!」     ***

ともだちにシェアしよう!