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夜明けの星 8-5(夏樹)

「ぃやっ!!」 「っ!?」  夏樹の手を振り払った雪夜の表情に、一瞬言葉を失った。    と同じ表情……   「夏樹さ~ん、雪夜く~ん、大丈夫ですか!?あれ?どこですか~?」 「――……っぁ……はぃ……はーい!」  夏樹は、心配して様子を見に来てくれた学島の声で我に返った。  振り払われたまま固まっていた手をグッと握りしめる。 「雪夜、ちょっとここにいてね」  雪夜の身体をそっとバスタオルで包み込んで、何とか表情を引き締めると脱衣所から顔を出した。 「学島先生、浴室(こっち)ですよ」 「あ、いたいた。良かった!」  学島がホッとした顔をする。 「お風呂に入っていたんですか?」 「はい。まぁ……ちょうど出たところだったんですけど……学島先生は大丈夫でしたか?」 「本を読んでいただけだったので大丈夫ですよ~!……雪夜くんは?」  学島が夏樹の背後にチラッと視線を移した。 「あ~……すみません、ちょっと……二人だけにしてもらえますか?」  学島に、「大丈夫だ」とは返事が出来なかった。  雪夜の状態がどうかなんて……俺が知りたい…… 「あ、はい……えっと、あの、斎さんか誰かに連絡しておいた方がいいですか?」  夏樹の様子に何かを察したらしい。   「ああ……そうですね、それじゃあ裕也さんに……母屋の固定電話からかけて下さい」 「わかりました」  学島は余計なことを聞いてこないので助かる……  夏樹は、大きく深呼吸をして笑顔で振り向いた。 「雪夜、俺のことわかる?夏樹だよ」  雪夜から少し距離を置いてしゃがみ込むと、やんわりと話しかける。 「ぃやっ……いやだっ!!」  両手で耳を塞いでいた雪夜は、夏樹の声がすると、それをかき消すように大きな声を出した。  俺の声だって気づいてないな……  今の雪夜がどういう状態なのか、何を思い出したのか、夏樹にはわからない。  状況的に、やはり監禁されていた間のことだろうとは思うが……  今の雪夜の目には何が映っているんだろう……?  少なくとも、夏樹は映っていないし、ここが脱衣所であることもわかっていないようだ。  雪夜が激しく瞬きをしたかと思うと、目を忙しなく動かす。  それは目の前に次々と流れ込んでくる映像を読み取っているかのようだった。  俺はどうするべき?  雪夜の様子をじっと見ながら、夏樹は夏樹で頭をフル回転していた。  しばらくその場で様子を見た方がいいとは思ったが、なんせ雪夜も夏樹も真っ裸だ。  雪夜の身体は停電の前に自分で拭いていたのでもうほとんど乾いているようだが、髪はまだ濡れている。  それにバスタオルを巻きつけていると言っても、さすがにずっと脱衣所で座り込んでいると風邪をひく。  服を着せたいが、今はまだ無理そうだ…… 「……よし、雪夜、ちょっとごめんね。ここにいると風邪引いちゃうから寝室行こうか」  夏樹は急いで服を着ると、バスタオルごと雪夜を抱き上げた。 「やあああだああああっ!!!」 「はいはい、イヤだよね、ごめんね。あ~こら、暴れると落ちるよ~!」  雪夜がパニクって、どうにかして夏樹から逃れようと暴れる。  雪夜は容赦なく夏樹の身体に爪を食い込ませて引っ掻いたり叩いたりしてくるのだが、その一方で夏樹は雪夜を傷つけないように必死だった。  暴れたせいでバスタオルは早々に床に落ちてしまった。  裸の状態で暴れられると、掴むところがないので手が滑る。  落ちないように力を入れて握ると痣になってしまうので、力加減をしなければいけないのだが、全力で暴れている相手に対して力加減をするのは難しいのだ。 「雪夜、危ないってば。こら、噛まないの!……あ~もういいや。いっそ噛みついてて!」  夏樹は首筋に噛みついてきた雪夜の後頭部を押さえて、噛みついた状態で固定した。 「ん゛~~~っ!!」 「はいはい、もう着くからね」  頭を固定してしまえば、少なくとも頭から下に落ちようとする危険はない。  それに、強く押さえつけられれば、それ以上噛むことは難しい。  手足をバタつかせることはできるが、何とか雪夜を落とす前に寝室に到着した。 「はい、とうちゃ~く!」  ベッドに雪夜を投げ落とす。  雪夜はベッドでぽよんと跳ねて仰向けに倒れた。 「……?」  何が起きたのかわからないのか、雪夜がポカンとした顔で天井を見つめた。  その間に、夏樹はバスタオルを取りに戻った。  ハテナマークを飛ばしている雪夜の頭の下にバスタオルを滑り込ませ、雪夜の視界に入らないように腕だけ伸ばしてそっと雪夜の頭を拭く。 「――……っ!?やだっ!やだやだっ!」  しばらくして雪夜がハッとした顔で頭をわしゃわしゃと掻きむしり、起き上がった。  バレたか。  まだ濡れてるけど、まぁ、全然拭いてないよりはマシかな? 「ごめん、ごめん、もうしません!」  夏樹は、立ち上がって雪夜から少し離れ、両手を挙げた。 「……?……?」  両手で頭を押さえながら、雪夜がキョロキョロと回りを見回す。  誰かに頭を触られていると思ったのに、その誰かが見当たらなくて困惑しているようだ。  夏樹がしたとは思っていないらしい。  それとも――…… ***

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