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夜明けの星 8-8(夏樹)

 次の週には雪夜を心配した兄さん連中が、次々に別荘に顔を出した。  すぐに来なかったのは、雪夜が落ち着くまでは夏樹と二人っきりの方がいいだろうと気を使ってのことだ。  学島とも話し合って、しばらくリハビリは中断して様子を見ることになった。   「雪ちゃん、お~はよ!調子はどうだ?」  朝食を食べていると、浩二が顔を出した。  浩二は昨夜、仕事を終えてから来ていたらしい。  雪夜がこの状態になってから浩二が来るのは初めてだ。 「……おはよ~……」  雪夜が浩二に向かって小さい声で挨拶をして、一瞬手を振った。  大丈夫そうかな?  雪夜は、4日程で落ち着いてきて、兄さん連中が来る頃には少し声も出るようになっていた。  まだ表情は硬いし夏樹にべったりだが、兄さん連中が話しかけてくると一応何か反応を返している。  言葉も表情も素っ気ないが、少しでも反応が返ってくれば兄さん連中は満足顔で雪夜の頭を撫でていく。  しつこく話しかけてこない、兄さん連中のそういうあっさりとした反応が雪夜は安心するようだ。  兄さん連中は雪夜に無理をさせたいわけではないので、反応がなければないで気にしない。  今はそういう状態なんだとちゃんと理解して来てくれている。  なんせ、雪夜に鬼だと思われていた時でも、近寄れなくても、気にせずにお見舞いに来てくれていた人たちだしな…… 「お!声が出てるじゃねぇか。アンニュイな雪ちゃんもなかなかいいね~」  浩二の軽口に、雪夜が困ったような顔で微妙に笑うと夏樹の胸に顔を埋めた。   「ちょっと、浩二さん。雪夜がどんな反応すればいいのかわからなくて困ってるじゃないですか」  夏樹は雪夜の背中を撫でながら、浩二に文句を言った。 「そんなこたぁねぇだろ!?」 「そして声がデカい!!」 「これは地声だっ!」 「10mくらい離れて話してくれます?」 「俺外に出ちゃうじゃねぇか!」 「それくらいがちょうどいいですね」 「おいこらっ!ナツ、ちょっとこっち来いや!」 「……ふふっ」 「雪夜?」  夏樹と浩二のやり取りを聞いていた雪夜が、クスクスと笑った。  浩二との言い合いはいつものことで、お互いにストレス発散のためにわざとやっているところもある。  兄さん連中の中でも、夏樹が一番気安く好き放題言えるのが浩二だ。  雪夜は、そんなやり取りを聞きながら、口に手を当てて楽しそうに笑っていた。 「あ~もう!浩二さんのせいで雪夜に笑われちゃったじゃないですかぁ~!」 「ちょ、俺のせいかよ!?」  若干ぎこちないものの、雪夜が笑ってくれたのが嬉しくて、夏樹も浩二も悪態を吐きながらも顔を見合わせて笑った。 *** 「……なつきさん」  朝食後、浩二と三人で食後のお茶を飲んでいると、雪夜が夏樹の服をツンツンと引っ張った。 「ん?なぁに?」  声が小さいので、雪夜に顔を近づける。 「あのね……あの……ぴょんぴょん……しないの?」 「トランポリン?あ~……リハビリは今日はお休みだけど……したい?」 「あのね……いっしょ……する」  そう言いながら、雪夜が浩二を指差した。 「ん?俺か?」 「浩二さんご指名ですね」 「そっかそっか、わかった、一緒にやるか!俺もちょうどぴょんぴょんしたいと思ってたんだよな~」  雪夜がうんうんと頷いた。  トランポリンで跳ねる練習を始めてから、浩二もここに来るたびにリハビリの様子を覗きに来ては雪夜と交替でトランポリンを使って一緒に跳ねて遊んでいた。  多分、それを思い出して一緒に遊びたくなったのかもしれない。  雪夜が自分で何かしたいと言い出したということは、今日はだいぶ精神的に安定しているということだ。  夏樹は雪夜の様子にホッとして、少しだけ浩二に嫉妬した。  俺も一緒にぴょんぴょんしたい!! ***

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