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夜明けの星 8-12(夏樹)

 寝室に取り付けたカメラは、毎日裕也がチェックをしてくれている。  雪夜はやっぱり昼間は元気いっぱいで、夜になるとうなされている。  夏樹が抱きしめていると少しマシにはなるが、ほぼ毎晩のように一度はうなされて目を覚ます。  だが、特にこれといった変化のないまま時間だけが過ぎていった。 ***  8月も終盤に差し掛かろうとしていた頃。  夜中に泣き声が聞こえた気がして目を覚ますと、雪夜がベッドを抜け出していた。  雪夜が夜中にひとりでベッドを離れるのは珍しい。  喉が渇いた時も、トイレに行きたい時も、普段なら夏樹を起こして一緒にいく。  だが、これが初めてというわけではないので、そこまで気にせずに探しに行った。 「どうしたの?目が覚めちゃった?」  リビングで膝を抱えている雪夜の様子を見て、胸がざわついた。  理由はわからない。  ただだ。  「――些細な変化が実は重要なサインだったりするんだ」  斎に言われた言葉が頭をよぎった。  夏樹は、雪夜が警戒しないようにあえてアンニュイな雰囲気を出しながら静かに近付いた。 「……っ……」  夏樹が隣に座ると、雪夜はゆっくりと顔をあげて潤んだ瞳で夏樹を見た。  やっぱり泣いてたのか……   「おいで、怖い夢でも見ちゃった?」  珍しいな、怖い夢を見た時はいつも俺にひっついてくるのに、ひとりでこっちに来るなんて……  夏樹は少し違和感を覚えつつも、雪夜に両手を広げた。  怖い夢を見た時は、夏樹が抱きしめてあやしてあげれば落ち着く。  こんなに怯えているということは、監禁されていた頃のか、それとも……  雪夜の過去が辛い記憶ばかりなので、悪夢の心当たりが多すぎて困る。  大学生になってから経験したことや、この数か月の間に兄さん連中や佐々木たちと経験したことでは、まだまだ過去の辛い記憶には勝てそうにない……    地道に楽しい記憶を増やしていくしかないな…… 「雪夜?おいで」 「っ……」  今日は自分から来てくれない日かな?  雪夜は悪夢の内容などによっては、自分から抱きついてくれる日と、そうでない日がある。  もともと甘え下手というのもあるが、悪夢のせいで“他人に触れられるのが怖い”という場合もあるので、雪夜が自分から来てくれない時は少し慎重に見守っていく必要がある。  夏樹が雪夜を抱き寄せようとそっと手を伸ばすと、雪夜が首を横に振ってイヤイヤをしながら口を開いた。 「ん?」 「もういやだ……」 「……え……?」 「、おきなきゃ……はやく……おきなきゃ……っ!!」 「雪夜?」  起きなきゃ?……どういうことだ?  今起きてるよね?  夏樹が戸惑って固まっている間に、雪夜は「おきなきゃ!」と繰り返しながら、半泣き状態で自分の頭をポコポコと叩いたり、頬をつねったりし始めた。 「あ、ちょ!雪夜!?こら、やめなさい!そんなことしたら痛いでしょ!?」  夏樹は慌てて雪夜の両手首を掴み、抱き寄せた。 「やだあああああっ!!!おきるのっ!!はやくおきなきゃっ!!」 「雪夜っ!ちょっと落ち着いて!起きてるよ!?今起きてるんだよ!?」 「おきてないぃいいいい!!いやだああああ!!はなしてぇえええ!!」  雪夜が泣き叫びながら夏樹の腕から逃れようと暴れる。  あ(いて)っ!うん、大丈夫、俺も雪夜も起きてるよっ!? 「雪夜っ!大丈夫だから、落ち着いて?ほら、こっち見て!俺の方見てごらん!?雪夜は起きてるよっ!?」 「ちがうっ!はやくっ!はやくおきなきゃダメなのっ!!おれ、なつきさんに……っ!」  ん?夏樹さん?……って、俺のこと? 「なつきさんに……なつきさんにあいたいいいいいっ!!」 「……ぇ?」 「なつきさんがいいっ!!もうやだっ!!もうおきるぅうううっ!!」  俺に……会いたい……?  一瞬思考が停止した夏樹は、泣き叫んでいる雪夜の顔をマジマジと見つめた―― ***

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