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夜明けの星 8-17(夏樹)

 ――……き……さん……いに……なら……で…… 「雪夜っ!?」    夏樹は、警告音に慌てて飛び起きた。 「……あれ?」  隣を見ると雪夜の姿がない。  寝ぼけた頭に軽く手を当てた。  基本的に睡眠時間は短いのだが、雪夜のことが心配でここ数日ほぼ不眠状態だったので一瞬深く落ちていたらしい。  えっと……あぁ、良かった。雪夜目を覚ましたのか……  じゃないっ!!  どこに行ったんだ!?  隆文に点滴をしてもらったとはいえ、体力は落ちてるはずなのに……  夏樹はベッドから飛び降りると、急いで部屋から出た。  警告音が鳴っているということは、危険な場所に近付いているということだ。   「雪夜!?どこにいるの!?」  通りすぎ際にさっと部屋中を確認していく。  センサーをつけている場所で……雪夜が行くとしたら……  上か!?  雪夜が危険な場所に近付くのは夏樹を探す時だけだ。  でも、今は……  俺が隣に寝ていたのに、どうして……?  また俺が偽物だと思ってパニックになってる?  くそっ!昨日髪を切っておけば良かった……っ!  二階への階段を駆け上がろうとした夏樹は、ふと違和感を覚えて足を止めた。    風……?  娯楽棟は雪夜のために一年を通して室温をほぼ一定に保っているので、基本的に窓や扉を開けっぱなしにすることはない。  どこから……?  急に周囲の音が消えて自分の心臓が早鐘を打ち始めた。  ゆっくりと風が流れて来る方向へと顔を向ける。  ……どういうことだ?  なんで……その扉が開いてるんだ?  視線の先にあるテラスへ続く扉が……薄く開いていた。  まだ時刻は深夜……扉の向こうに広がるのは……   ***    いたっ!!  テラスに人影が見えたので急いでテラスのライトをつけようとして、夏樹はその場で固まった。 「……雪……夜?」  テラスの真ん中で、雪夜が池の方向をじっと見つめていた。  月灯りに照らされて佇むその姿があまりにも儚くて……そのまま光の中に溶けてしまいそうで……  一瞬、月光を浴びる雪夜に見惚れて、呼吸をするのも忘れていた。  そういえば、今夜は満月か……  普通ならベタに「いい月夜だね」とか、「月が綺麗ですね」とでも声をかけるところだけど……  満月のおかげで、真っ暗……というわけではないが……それでもテラスから見える別荘の周辺は鬱蒼(うっそう)と茂った木々が風にざわめき、地面には真っ黒な影が揺れていた。  夜……暗闇……黒い木々……風の音……池……  それらは全て……雪夜の……  ハッとしてテラスのライトをつけると、雪夜がゆっくりと振り向いた。 「……雪夜?……大丈夫?」  やけに喉が渇く……  話しかける声が自分でも笑ってしまう程に震えていた。  今の雪夜が一体どういう状態なのかが全然予想がつかない……  何歳なのか……パニック状態なのか……なぜ……ココニイルノカ……  静かに夏樹を見つめるその表情からは、何も読み取れない。  駆け寄って抱きしめたいけれど、安易に近付いても大丈夫なのか判断に迷って足が踏み出せずにいた。  見つめ合ったままお互い動けずに、時間が止まったような感覚に陥る。  先に動いたのは雪夜だった。 「……つき……さ……」  夏樹を見つめていた雪夜の顔が一瞬くしゃっと崩れた。  あ……泣いちゃう……  そう思って無意識に手を伸ばした瞬間、風が吹いて雪夜の身体がグラッと揺れた。 「雪――っ!!」  受け身も取らずに倒れかけた雪夜を、間一髪のところで抱き留める。  間に合った……   「雪夜!?大丈夫!?」  軽く揺すると、腕の中で雪夜が微かに動いた。  意識はあるらしい。 「良かった。とりあえず、中に入ろうか」  とにかく、テラス(ここ)から離れよう……    夏樹は雪夜を抱き上げると、急ぎ足で部屋に戻った。 *** 「雪夜……?寝ちゃった?」  ソファーに座って雪夜の顔を覗き込む。 「……」    返事はなかったが、ぼんやりとした瞳が夏樹を見返して来た。 「え……っと……お腹空いてない?何か食べられそう?」  聞きたいこと、確かめたいことはいっぱいある。  でもまずは、何か食べて欲しい。 「……らない……」 「いらない?お腹空いてないの?じゃあ、何か飲み物でも……」 「――……」 「……え?」  夏樹は雪夜の言葉に耳を疑った。 ***

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