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夜明けの星 8-20(夏樹)

「ナツの前から消える……ねぇ……」 「いや、そんな気がするって言うだけなんですけど……」 「何でそう思う?」 「……雪夜はびっくりするくらいネガティブなんですよね。特に俺に関しては……」  最初の付き合い方が、まぁ、アレだったせいで、いくら夏樹が気にしていないと言ってもやっぱり雪夜の中ではずっと気になっているようで、引け目を感じているようだった。 「あ~……まぁたしかに……気にしてそうだよな」 「で、俺がちょっと機嫌悪かったり、ため息を吐いたりしただけでも、雪夜は自分のせいで俺の機嫌が悪い、自分のせいで怒らせたって思っちゃって……そんな感じだから、俺がって言えば、普段はすぐに引き下がるんですよ」  ごめんなさい……ってしょんぼりして…… 「それなのに、今回はやけに粘ってるじゃないですか……」  大学生の頃を思い出すと、雪夜が粘る時は……大抵ひとりで余計なことを考えて暴走している時だ。  つまり、今回のも……もしこれで夏樹に嫌われたとしても、それでも一回でいいから抱かれたいと思っている……のではないかと……  ただ、もしその考えが当たっていたとして、どうしてそこまで雪夜が思い詰めているのかがわからない。 「なるほど、ナツが不安になるのはわかった。ただ、ここは山の中だ。ナツに黙って別荘から飛び出しても、(ふもと)に下りるのに時間かかるし、そこから誰かに拾ってもらうにしても、車もあまり通らないから無理があると思うけどなぁ……」 「……下山するとは限らないでしょう?」 「……それは……あ~……なるほど、わかった。お前が心配しているのはか……」  斎が大きく息を吐きながら軽く頭に手を当てた。  「考えすぎだ」と笑わないのは、斎ももしかするとその可能性があるかもしれないと思っていたということかもしれない。 「とにかく……出入口や危険な場所にはセンサーがついてるし、カメラも別荘中にある。もし雪ちゃんがひとりで出て行こうとしてもすぐに気づけるはずだ。俺たちも気を付けておくから、お前はちょっと寝ろ!どうせあれからまたあんまり寝てねぇんだろ」 「……はぃ――」   ***  それから更に一週間程経って…… 「お~い、雪夜く~ん……こっちおいで?」  夏樹は部屋の隅で膝を抱えて丸まっている雪夜に声をかけた。  雪夜は恨めしそうな目でチラッと夏樹を見て、プイっと顔を背けた。  う~ん……完全にいじけちゃったな……  今朝も夏樹の寝込みを襲うことに失敗してしまった雪夜は、とうとう朝ご飯を拒否して、そのまま部屋の隅に行ってしまったのだ。   「ゆ~きや?ほら、こっちにおいで?朝ご飯食べようよ」 「……いらない」 「いらないの?う~ん……じゃあお薬だけでも……」 「いらないっ!!」  ですよね~……  薬嫌いだもんねぇ……   「じゃあ、ジュースは?」 「……」  雪夜がちょっと考えてから無言で首を横に振った。  大好きなジュースでもダメか……  今までいくら夏樹がキスを拒んでも、なんだかんだで雪夜は夏樹にべったりだった。  だから夏樹もある意味安心出来ていたわけなのだが……  雪夜がいじけて夏樹から離れてしまったら、この先の行動が全然読めない……  夏樹は内心焦っていた。 「雪夜、ねぇ、こっち向いて?顔が見たいな~」 「やだっ!」 「どうして?」 「なつき……さん、も、やだって……」 「俺はヤダなんて言ってないよ?雪夜が来てくれないと寂しいな~……」 「ちゅう、だめって……きらいって……」  雪夜の声がだんだん涙交じりになってきた。 「言ってないよ!そんなこと言ってない!雪夜のことは大好きだよ?嫌いだなんて言ってない!」 「いったもん……」 「俺は、もうちょっとご飯食べて、元気になってからねって言ったんだよ?」 「ごはん……たべたよ?……げんき、なったよ?……でも、だめって……ちゅうも……だめって……」 「だからそれは……」  たしかに、雪夜はあれからずっと夏樹の言う通りに頑張っている。  毎日ちゃんとご飯を食べて、運動をして……  元気になってから!という言葉で誤魔化(ごまか)すのはさすがにもう無理があるよな……  夏樹は軽く頭を掻くと、大きく息を吸って気合を入れた。   「雪夜、ちょっとごめんね」 「っ!?」  膝を抱えて座っている雪夜を背後から抱きしめてそのまま持ち上げ、ベッドに運ぶ。 「わっ!?……んぷっ!」  夏樹は、雪夜がまた部屋の隅に逃げないよう、ベッドの上でバランスを崩して寝転んだところを上から軽く押さえつけた。   「ようやく顔が見えた」 ***

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